第8話

 堕竜兵の咆哮が再び戦場を震わせる。

空から、地上から、群れが押し寄せ、氷牙の隊列はぎりぎりの均衡を保っていた。


 「ここまでだ……」

 剣士が汗まみれの顔で呟いた。盾がひび割れ、斧士の肩が血に染まっている。後衛の魔導士は詠唱をやり直し、魔力を絞り出すように声を上げた。


 「マイ、次は支援魔法を――!」


 だが、マイは応えずに飛び跳ねた。

 「今はそれどころじゃない!」と心の中で叫びながら、彼女は仲間の声を制し、指を弓弦の上に据えた。


 (――数を削るしかない)


 深呼吸して、呼吸を刻んだ。まるで鼓動が矢とともに加速するように。


 まずは左翼、マイのいる岩場の裂け目を足場に、さらに二体の堕竜兵が襲いかかる。マイはまったく同じように、喉へ、こめかみへ、脚関節へと矢を撃ち込み――瞬く間に四体を消し去った。


 「すごい……!」

 「マイ、弾切れだ、退け!」


 氷牙の仲間がそれを見て息を吹き返し、一斉に押し戻しを開始する。グランが前へ斬り込み、エルナが盾で道を切り開く。魔導士は氷結のバリケードを築き、リオスが凍結鎖で動きを封じた。


 そして、ついに――

 敵の波が一瞬だけ止まった。


 「いける!」

 「一気に押し切れ!」


 怒涛の反撃が始まる。

 マイは残る矢をすべて番え、最後の力をこめて連射した。

 今度は冷静よりも熱意を、その一矢一矢に込める。


 裂けた岩陰から飛び出した黒い影が、斬り伏された。

 くずおれた堕竜兵の群れが、砂塵とともに静止する。


 沈黙の後、誰かが息をついた。


 「終わった……のか?」

 盾を支えるエルナが、倒れた仲間を抱き起こしながら呟く。


 マイは弓を下ろし、深く腰をかがめて息を整えた。

 遠くで、仲間たちの歓声とため息が交錯する。


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