6. オレが知らなかった世界
オレたちは一度アパートに戻ってきた。外で大声で話すことでもねぇし、タクトは真っ青で、休ませないとヤバそうだ。
……案の定、アパートの前でいきなりぶっ倒れた。風邪ぶり返したな。賢く見えてバカなのか?
部屋のテーブルで一息ついてから、レイを見た。
やっぱりこいつらどっかおかしいんじゃねーだろーか、という気持ちを、これでも一応おさえてるつもりだ。
帰りがけにタクトは、それまでの話をしだした。
……理解しようとしてるオレが、お人好し過ぎんのか?
何でもそっちの世界ってのは、遺伝子がなんたらかんたらで、赤ん坊の頃から大学生なみの知識なんだそーだ。脳にインストールとかすんのかな。……赤ん坊に?
学校もいらなくなる。
代わりに『ランク付』されるようになったそうだ。
「それから?」
オレはテーブルに肘をつきながら、レイに話すよう促した。
「……」
「話せよ、いいから」
「……潜在能力が、引き出せるようになったの」
レイの言葉に某漫画の設定が浮かんだ。異能ってやつ?
生まれた時の検査で能力がわかると、ランクと職業が決まる。
高けりゃいいが、低いと、生まれた時点で詰み。……赤ん坊で既に人生決まんのか?
「ニートやバイトで食いつなぐヤツとか、まだいる?」
「……そんな楽なもんじゃないよ」
布団の中で、タクトが力ない声を上げた。
「希望関係なしに、仕事割り振られるだけだし」
「わかったから、寝てろよ。ぶっ倒れたら面倒だ」
興奮気味に起き上がろうとするタクトを布団に沈めつつ、『ランク』について考えてみた。まぁ、今もあるよな。偏差値とか大学ランクとか。
「お前らもランク付いてんの?」
視線を落としたレイが、ゆっくりとこっちを見る。オレに対する警戒は解けたんだろうか。最初に会ったときのような不思議そうな表情だった。
「……ショースケはランクS」
「S?」
「ランクに区分けできない特殊能力。ランクAよりも上」
「特殊能力?」
「……時間移動。高い所から飛ぶみたい」
えーっと……チート過ぎて、なんも入ってこねぇ。
ゲームの話されてんのオレ? 嘘ならもっとマシな事言う、よな?
とりあえず、黙って聞いてみるか……。
「そのショースケとお前らって、なに、友達?」
「みんな、研究所(ラボ)で知り合ったんだ」
「ラボ?」
「能力者の力を延ばす所。三才のときにラボで会ってから、ずっと三人一緒」
ラボに能力者。……SF? 専門外だ。
「お前らも、時間系?」
尋ねるとレイは静かにかぶりを振った。
「タクトは、記憶を操作できるよ」
「えーっと……?」
こっちもチートかよ。軽く人間超えてる。口には出さねぇけど。
レイがボソリと言う。
「この時代は、引き出せる人がいないだけ。能力を持ってる人はいる」
「オレにもあったり?」
「ショースケはSだよ?」
「じゃなくて……ああ、もういいや」
……やれやれだな。
怪しげな単語。それも深夜番組が食いつきそうなやつ。
そいつが、当たり前のように飛び出し、話が進んでいく。
追いつけるか自信なくなってきた。
「……これ、頭だけじゃ処理できねーわ」
頭使う系のゲームは、メモを取りながら。基本中の基本。
メモアプリに、どんどん書き込む。
『能力者 ……ランクがある S 、A
ラボ 能力のばすところ
ショースケ S 時間移動 高い所から飛ぶと発動? →チート過ぎ笑
タクト 記憶いじれる
…』
……こんなもんかな。
書けば書くほど、ゲームの攻略だな。
「ねぇ? これ何?」
!? ……レイがスマホを覗き込んできた。
パーソナルスペースの許容範囲、また縮まった?
「攻略メモだよ。整理しながらじゃないと、わけわかんねぇわ」
ってか、タクトも頭起こしてメモ覗きに来てんだけど……微妙な顔して目逸らしやがった。
「で、そんなすげえ奴らが、なんでここにいるんだよ?」
「……ラボから、逃げたの」
「逃げた?」
「力が消えて、必要とされなくなった。それで、……私は、ルームゼロに落とされたの」
「落とされた?」
それっきり、レイは黙り込んだ。
また妙な用語が出てきた。ルームゼロって、なんだ?
タクトが、しまったと言いたげな顔で、口に人差し指を当てた。
レイは気まずそうにタクトと顔を見合わせる。
「ラボは、ボクたちの能力で様々な実験をしている。その度に、体が削られていくんだよ」
……実験。ルームゼロ。もう、嫌な予感しかしねぇ。
「一緒にいた仲間も、今はもう……」
「力は、無限じゃないんだよ。レイは、昏睡状態にまでなった」
どこをみるでもない視線でタクトは言った。
「それを、あいつらは……」
布団を掴むタクトの手は、何かを我慢するように小さく震えていた。
「待て、そのルームゼロって、何?」
そこからか。とタクトは首をすくめて、吐き捨てる。
「能力者の……収容所」
こいつにしては歯切れが悪い。なんとなく、どういう所かわかっちまった。
『能力者→ラボに実験される
ルームゼロ ……収容所 →ヤバそう』
メモだけ見ると中二病の漫画。けど、タクトの態度で、妙にリアルに思えてくる。
メモってたら、タクトがどこ見てるともわからない目で呟いた。
「……あそこは死ぬよりきついよ」
今、首のあたりがゾワっとした。タクトの目もイってて怖ぇ。
死ぬよりヤバいって、想像つかねぇし、考えたくもねぇ。
なんて世界で生きてきたんだ、コイツらは。
「ゼロに落とされる前に、ショースケとタクトが助けに来てくれて、まだランク付けがなかった時代へ三人で行こうって」
時代? あ、ショースケが時間移動できるからか。
「そんで、ここまで来たわけか」
ってか、なんでわざわざこの時代?
「ショースケが口癖みたいに言ってた、以前は私たちくらいの子供たちが、まとまって勉強する施設があったって」
レイはうれしそうに頭を揺らす。
「ちなみに、何年後の話?」
んー、と、レイはしばらく考えて、横の布団で寝ているタクトを起こし、尋ねる。
「そーだね、……キミのひ孫にひ孫ができても、まだずっと先」
未来すぎて、ピンとこねぇ。今、何世代も超えたよな?
「……それで、どうせ行くなら、大昔にあった学校って所に潜り込んでみようって」
今の時代が、大昔扱いされてるし……。
「この時代は、まだ簡単なんだよ。人も大した管理されてないし」
「お前ら、それマジで言ってんの? なんで好き好んでわざわざあんなとこ」
しかもそんな遠い未来からわざわざ……授業とかダルすぎだろ。
尋ねるオレに、突き刺さりそうな二人の視線。
「……なんだよ?」
「こんなに変わるもんなんだね。あんなに学校に通うことに憧れてたのに」
「憧れてた? オレが? 何が悲しくて、遊び盛りが勉強押しつけられなきゃなんならねーんだよ」
「今のキミには分からないか。誰でも好きな事を選べる。自分に合ってるか経験できる。羨ましいよ。ホント」
タクトは呆れて言う。……くそ、そのショースケってどんだけ優秀なんだよ。
「面白いものがたくさんあるから、ショースケのお気に入りの時間なんだって」
「面白い……か?」
「とにかく、ボクらは、そうやって、今の時代に来たのさ」
再びレイが消え入りそうな声で言った。
「けど、それが上部に知られてしまったの」
レイの一言で、なんか空気が、ズシッと重くなった気がした。
___________
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