第9話:泡結婚と看板魔の破局

結婚式だった。

いや、泡式だった。


泡で描かれた通路を、左右に滑りながら歩く花嫁と花婿。

空には泡文字で「♡なんでやねん♡」がくるくると回り、祝福の音を立てていた。

村の人々も横並びに座り、泡越しに二人を見守っている。

そこには静かな喜びと、どこか不安げな空気が混ざっていた。


司祭を務めるのは、ヒゲを優雅にうねらせる村長だった。

泡マイクを通した声が、式場の端々まで響く。


「あなたは、相手のツッコミに耐え、泡の中で笑いを分かち合い、左右にだけ心を寄せることを誓いますか?」


ハサミ子は泡を小さく割り、笑みを浮かべた。


「わたくし…泡が跳ねても、ツッコミが暴れても…ずっとこの笑撃の世界で寄り添うザマス!」


ツッコム君は一瞬だけ前を向きそうになった。

でもハサミ子の瞳を見て、肩の力を抜いた。


「俺の“なんでやねん”を毎日受け止めてくれるなら…前向かなくても幸せだ!」


泡が弾け、「ポン」という祝福の音が式場中に響いた。

そのときだった。


式場の端から木製の自走看板が滑り込み、割れかけた声で叫んだ。


「俺は!認識されたかっただけだ!読まれるたび人格崩壊しても!ずっと立ってたんだよ!

でも昨日…柱に告白してフラれたんだよ!!婚礼の泡が!俺の泡を割ったんだよォォォォォ!!」


泡ゲージは乱流を起こし、風が逆走し、村長のヒゲさえ一瞬止まった。


「看板魔の木恋泡、破裂カニィィィィィ!!」

パニ子が絶叫し、甲殻メガネが震えながらつぶやく。


「木目の失恋って…物理的にどう処理すれば…割る?貼る?染める…?」


空が音を失い、次の瞬間、カニ様のハサミが左右→上下→螺旋→シャッフルと暴走を始めた。

泡がコード化され、空気が不気味に震える。


🦀 カニ様 モード切替:感情解読不能


「ツッコむ…泡る…愛す…読む…割る…なんでやねん…YO…ヒゲ…

泡のアルゴリズムが…重複……笑って…よいのか…?」


カニ様の声がノイズ混じりに響き、空から“ハサミでできたドローン”が舞い降りた。


「緊急対応:村の笑撃濃度181%

ギャグ飽和警報発令。ツッコミ3回分を泡緩衝処理してください」


「つまり“ツッコまず耐える”ことで世界の崩壊を避けろってこと!?人柱か俺は!」

ツッコム君は叫びながらも笑った。その笑いさえ泡に吸われそうになりながら。


看板魔は泡を零しながら柱の影へ戻ろうとした。

振り返り、かすれた声でつぶやく。


「…ただ、誰かに笑ってほしかっただけなんだ…」


そのとき、泡が寄り添い、空に滲む泡語のメッセージが浮かんだ。


「読まれなくても、笑っていいよ。」


看板魔の木目が、一瞬だけ光った。

泡がポンと跳ねた。


結婚式は笑いの中で無事に終わった。

祝福の泡は左右に広がり、村人たちは横に滑りながら「なんでやねん」を合唱した。



🦀 次回予告!

第10話:泡世界会議とカニ様の再起動

全泡国家による笑撃外交が勃発!看板魔は代表に?カニ様はバグから復活なるか?

世界の方向感覚を決める“泡政策”審議、開幕――!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る