第四章

第67話 王都への旅路

「――ここは年齢順、ということで。最初はメディナ様、その次に私、そして最後はエリナ様……もしくは、ご一緒にいかがですか?」


 王都を出発してからおよそ半日。

 現れた魔物はすべて俺の<完全解呪>で沈黙しているため、戦闘らしい戦闘もない。

 昼食を挟みながらの穏やかな道中だったが――夕方にもならぬうちに、話題は妙に濃い方向へと傾いていた。


 そう、今しているのは俺と過ごす夜の順番についての話である。


 エリナが馬車に加わってからというもの、イリスとメディナには改めて自己紹介と、俺との関係を説明した。

 今のイリスは俺を独占しようとは思っていないらしい。それならいっそ、と順番を決める提案をしたのだ。


「わ、私は最後でも……いえ、そもそもそんな資格が……っ」

「メディナ様は一番お若いですが、関係の長さで言えばエリナ様より先です。意見はお持ちになってもよいでしょう」

「私も遠慮するつもりはありませんよ? メディナさんだって、シュウさんのこと……お慕いしているのでしょう?」

「あ、あぅぅ……っ」


 メディナは真っ赤になり、視線を泳がせる。

 直接的な言葉にはとことん弱い。もともと引っ込み思案な性格だから、余計に口をつぐんでしまうのだ。


「なぁ……俺の意見はない感じ?」

「ふふっ。では、シュウ様がお決めになりますか?」

「うーん……出会った順でいいんじゃないか? イリス、メディナ、エリナ――」

「どうかなさいました?」


 ふと目をやれば、馬車の窓の向こうに神殿騎士隊の隊列が見える。

 休憩のたびに、セイラ率いる彼女たちも足を止めてくれていた。


 ――あいつのことが、どうしても気になる。

 セイラは冗談だとしても「私を置いてハレスを出るなど、許されるわけがないだろう?」と言っていた。

 つまり、少なからず俺との時間を意識しているのだろう。


「セイラさん、でしたね。あの神殿騎士の方……とても綺麗な方ですね」

「そうだな」

「出会いの順番でいえば、セイラ様は四番目になりますね」

「……まあ、あいつがどう思ってるかはわからんけど」

「王都までの道は長いです。体力が続く限り、一対一にこだわらなくてもよいのでは?」


 イリスは慣れた調子で言うが、エリナは顔を赤らめる。

 複数プレイの経験などあるはずもないのに、どこか興味ありげな目をしている。

 ……この一ヶ月で、だいぶ色づいたものだ。


「……主さまぁ……アタシはぁ……?」


 頭上から、拗ねたような声が降ってきた。

 屋根の上に座っていたドロテイアだ。


「お前はたまにでいいだろ」

「なんでぇ!? アタシが一番性欲強いのにぃっ!」

「今まで人間にしてきたことを考えろ。罰が足りないんだよ。メス犬らしく待てしてろ」

「うぅぅぅ~~~……!」


 奴隷契約を結んでからというもの、あの高慢な態度はすっかり鳴りを潜めた。

 俺にだけは、すっかり牙を抜かれた状態だ。


 ……まあ、ダークエルフの見た目になってからは結構好みではあるんだけどな。


「あ、いいこと思いついた。今度ここにいる四人でドロテイアをいじめてやろう」

「主さまッ!?」

「よ、四人で、ですか……? シュウさんって、ドロテイアのことになると本当にサディスティックですよね……」

「アイツにはそれくらいがちょうどいい。生かしてやってるだけ感謝してもらわないとな」


 ――そして、言葉どおり。

 旅の途中で実行した。


 俺、イリス、メディナ、エリナの四人がかりで、ドロテイアを徹底的に可愛がってやった。

「抵抗するな」と命じれば、奴隷契約の効力で一切逆らえない。

 そのまま四人に愛撫され、何度も絶頂を迎えさせられたドロテイアは、最後には涙声で「もうやめてぇッ!?」と懇願していた。


 それ以来、三人とも少しだけSっ気が出てきたように思う。



 その話とは関係ないが、ドロテイアについて新たにわかったことがある。

 彼女の闇魔法には、なんと<空間収納>という魔法があったのだ。

 戦った当初から手ぶらだった理由も、それでようやく納得した。


 もっと早く言ってくれていれば、荷物の運搬もだいぶ楽だったのに。

 今は彼女の<空間収納>に食料や装備を詰めてもらったおかげで、馬車の中もすっきりしている。



 ◇◇◇



「――なあ、サミュエルって、結局どんなヤツなんだ?」


 夜の焚き火を囲み、静けさが広がる野営地で、俺は隣に腰を下ろしていたドロテイアに問いかけた。

 帝国のスパイ――その名はイリスから聞いていたが、ハレスを出て以来、姿どころか噂すら耳にしていない。

 まるで最初から存在しなかったかのように、影も形も掴めない男だった。


「アタシも詳しくは知らないよ。興味があったのは、精気だけだったからねぇ」

「<醜化>の呪いを使ってたのは、そいつじゃないのか?」

「醜い顔に変えたって話だろう? 確かに、そんな噂は聞いたけど――誰が呪術を使ったのかまでは、話に出てなかったはずさぁ」


 なるほど。

 呪いの出所を探ろうにも、これでは手がかりが薄い。

 セイラが見張っているブルドグから何か聞き出す手もあるが、わかったところで……。解呪が俺の役割である以上、発動を防ぐ術は限られている。


「主さまぁ……」


 不意に、ドロテイアが身体を寄せてきた。

 猫のように頬をすり寄せ、腕を絡ませてくる。

 その甘ったるい仕草は、まるで欲求を隠そうともしない。


「……また今度な」

「えぇぇ〜……アタシ、もう爆発しちゃいそうだよぉ……」


 唇を尖らせながら、彼女は未練たらしく俺の肩にもたれかかる。

 だがここは焚き火の前。馬車の中ではあるが、周囲には仲間もいる。

 さすがに今は、そういう雰囲気じゃない。

 するといっても場所はちゃんと選んでするのだ。



 ――旅の途中、数週間にわたって野営を繰り返す中で、水場や天然の温泉を見つけることもあった。


 皆で身体を洗い、疲れを癒やすひととき。

 その場の勢いで色々としてしまったが、その時の記憶は、今も脳裏に残っている。……が、それはまた別の話だ。



 ◇◇◇



「ちょっとトイレ行ってくるわー」


 王都を目指して三週間ほど経った頃のことだ。

 いつものように、休憩の合間を見て近くの林へと足を運ぶ。

 野営続きの旅では、当然トイレも自然の中。木陰を選び、人の気配がない場所を探すのが日課になっていた。


 静かな森の空気を吸い込みながら歩く。

 前世では、六花と一緒にいる時以外は、ほとんど一人で過ごしていた。

 だからだろう――こうして少しの間でも一人きりになると、妙に心が落ち着く。


 ……その時だった。


「きゃあああああああっ!!」


 森の奥から、甲高い悲鳴が響いた。

 反射的に顔を上げ、声のする方へと駆け出す。


 木々の間を抜けた先――そこには、俺たちの馬車よりも、そして神殿騎士隊のものよりもはるかに豪奢な馬車が停まっていた。

 だが、その周囲を取り囲んでいるのは粗末な革鎧に身を包んだ男たち。野盗だ。


 そして、彼らに囲まれていたのは――

 ドレスを無残にも裂かれ、下着姿にされたまま身を寄せ合っていた二人の女性だった。






――――――――


ということで、今回から第四章教会学校編がはじまります!


作者自体のフォローもお待ちしていますので、ぜひよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る