第30話 変装
「……さすがにヤリすぎたかな」
朝を迎え、俺とイリス、そしてメディナが三人揃って馬車から顔を出す。
けれど昨日の余韻もあってか、俺は少しげっそりしていた。二日連続で体を酷使したせいで、芯から疲れが出ている。
一方でイリスとメディナはというと、肌つやがよく、どこかスッキリとした顔。……羨ましいにもほどがある。ただ、足はぷるぷると産まれたての子鹿のように震えていた。
昨夜、イリスとはじめて交わったことで、思いがけず知ったことがあった。
聖女や聖女候補の身体は特別で、生まれながらに処女膜の代わりに聖膜というものを持ち、特別な存在でなければ貫けない。さらに――子を成せない体質であること。
ババアたちに子どもがいなかったのも、このためだったのだろう。
俺はどうやらその特別な存在だったらしく、イリスの聖膜を破ることができた。
ただ、もう一つの方――子を宿せるかどうかは、今の俺にもわからない。
数百年前に一度だけ聖女が子どもを産んだという記録があるそうだが、それくらいしか例が残っていないらしい。
イリスにはいつか子供を産みたいという願いがあった。
その想いに応えようとした俺は、勢いのまま五発も彼女の中に注ぎ込んでしまったのだ。
……思い返せば、軽率すぎたかもしれない。
もし本当にイリスが子を授かってしまったら――聖女の資格に影響が出たりしないのか。今となっては、それだけが心配でならなかった。
焚き火のそばへ行くと、既にグレンたちが朝食の支度をしていた。
「シュウ、おはよう。……どうした? なんだか元気がないな」
「そうか? ……まあ、昨日は出しすぎたからな……」
「ん? 出しすぎ? なんの話だ?」
「いや、こっちの話だ」
「そうか……だが、イリスとメディナは妙に元気そうに見えるが」
「だろうな」
俺はグレンに余計な想像をされないよう、曖昧に受け流すしかなかった。
朝食を軽く済ませたあと、俺たちは再び二台の馬車に分乗し、次の村を目指す。今日中には辿り着けるらしい。
◇◇◇
「――エリナ。どうかしたのか? 朝から顔が赤い気がするが……」
声をかけたのは、『銀の刃』のタンク役、ガロだった。
今、御者台にはグレンとリシアが座り、馬車の中にはガロとエリナが乗っている。
「いえ……心配には及びません。体調が悪いわけではありませんので」
「そうか。ならいいが。……何かあったら遠慮なく言うんだぞ」
「はい……。――ガロ、一つ伺ってもよろしいでしょうか」
エリナは自分の何倍もある巨躯のガロを見上げ、少し迷いながら問いかけた。
「ガロは……故郷に恋人を残してきたのでしょう?」
「ああ、幼馴染をな。……本当は俺に帰ってきてほしいんだろうが、俺はまだここでやりたいことがある」
「そう……ですか」
「幸い、このパーティは定期的に故郷へ帰る時間も作ってくれるからな。助かってるよ」
グレンとリシアは恋人同士。ガロには幼馴染の恋人がいる。
――つまり『銀の刃』でただ一人、恋人がいないのはエリナだけだった。これまで縁もなかった。
「……もしかして、エリナも恋人がほしくなったのか?」
「ち、違います! 決してそういう意味では……」
「はは、エリナは美人だし、すぐ相手が見つかるさ」
「ですから! 勝手に決めつけないでください!」
「ははは、悪かったよ。だが、エリナの口からそんな話が出るなんて珍しいからな」
ガロは豪快に笑い飛ばす。
だが、エリナの胸中には――もっと艶めかしい想像が渦巻いていた。
(この大きな体……。ガロの恋人は確か小柄な方だったはず……。あんな身体差で、一体どんな風に夜を……はっ、な、何を考えているんです私はっ! 全部、昨夜見てしまったあのせいです……!)
そう――エリナは昨夜、偶然にもシュウとイリス、そしてメディナとの営みを目撃してしまっていたのだ。
以来、三人の顔を見るたびにその光景が脳裏に蘇り、正面から向き合えなくなっていた。朝食だって、わざと一番遠い場所で食べていたくらいだ。
(……でも、恋人同士というわけではないのですよね……? だとすれば、あれは快楽に身を任せただけの慰め合い……)
エリナの頭は、しばらくの間ピンク色の妄想で染まり続けるのだった。
◇◇◇
六日が過ぎ、ようやく冒険都市ハレスに最も近いとされる最後の村に辿り着いた。
本来なら一週間の道程らしいが、既に数日遅れている。
途中で立ち寄った村々はどれもポワンに似た、小さな農村ばかりだった。
村人は商人を通じて作物を街へ売り、領主に税を納めて暮らしている。領主は東方辺境伯という爵位持ちだそうで、ハレスより東一帯を治める人物だという。
俺の故郷イアシスは例外中の例外らしい。あのジジイたちは税なんて納めていなかったはずだからな。
そして今、俺たちは村の衣料品店にいた。
目的はただ一つ――変装だ。
「なあ、イリス。その服、ブルドグたちに見られてないか?」
「正直、わかりません。認識阻害魔法は使っていましたが……あれは完全ではありませんから」
「なら、着替えた方がいいんじゃないか?」
「それは……私は聖女候補ですから、服を変えるわけには……」
イリスは作戦を立てていなかった。
ハレスに着いてからも、考えなしに突っ込むつもりだったらしい。だが、それでは危険すぎる。
相手は大司教クラス。下手をすればハレスそのものを牛耳っている可能性だってあるだろう。
「いやいや、どう考えても危ないだろ。変装しろって」
「ぐぬぬ……シュウ様がそう仰るなら……」
「よし、服を探そう」
こうして俺たちは、衣料品店の中を物色しはじめた。
「そういえば、グレンたちの防具ってハレスで買ったのか?」
村の店に並ぶのは生活服ばかり。対してグレンたちの装備は、明らかに本格的な冒険者仕様だ。
「ああ。だが一部は魔物の素材を鍛冶屋に持ち込んで特注したものだ。このガントレットもそうだ」
「鍛冶屋!? 錬金術師とは違うんだよな?」
「もちろんだ。ハレスに着いたら案内しようか?」
「マジか! 助かる!」
ワクワクが抑えられず、思わず声が弾む。
ひとしきり夢を広げたあと、改めてイリスの服を探すことにした。
冒険者の装備こそなかったが、それっぽい服は見つかった。
上は白、下はワインレッドのアンティーク調ドレス。その上に茶色の革の胸当て——のようなものと、収納用の腰ベルトを合わせる。さらに大きめのキャスケット帽を目深に被れば、立派な冒険者風だ。
試着したイリスを見た瞬間――
「わあ、イリス様、とってもお似合いです!」
「うん、いいじゃないか。よく似合ってるぞ」
「そ、そうでしょうか……。聖衣ばかり着てきたので、どうにも落ち着きませんが……。でも、シュウ様とメディナ様がそうおっしゃるなら……」
イリスはどこか不満げだったが、正直、顔が良すぎるので何を着ても映える。
しかも胸当てのおかげで、あの規格外の胸が少し抑えられている。今まで無防備にさらして無事でいたのがむしろ奇跡だ。
「そうだ、メディナもその服じゃ動きづらいだろ。せっかくだし、一着選んでやるよ」
「わ、私もいいんですか!?」
「ああ。金は俺が出すから安心しろ」
「……う、嬉しいですっ!」
メディナには黒で統一した軽装を選んだ。下はショートパンツ、腰にはナイフを固定できるベルト。
さらに元々所持していたフード付きのローブを羽織れば、まるで本物のアサシンだ。
こうして二人の服装が整った。
この日は村で一泊し、二日後――いよいよ冒険都市ハレスに到着する予定だ。
―――――――
聖膜に関する行為中のやり取りは、前回の話のノクターン版に掲載されています。ぜひそちらもお読みください。
ちなみにイリスの胸のサイズはLカップの設定です。
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