3 秘められた力 上
「み、宮下さん……えっと、その……これは……」
言えない。
三千万円相当のチケットをSSランクのアイテムに変えるつもりが、Dランクらしい女の子になりました、なんてとてもじゃないが言えない。
この人には恩が有るから殺されたって文句は言えないが、それはそれとしてそんな事は言えない。
そして宮下は頭の回転が速い方だ。
少し考えればある程度の察しは付く。
「……成程。引いたんだな、高いレアリティのアイテムを。それがそのガキだ」
「……」
「正直俺達が使っている鑑定用のアイテムじゃ効力までは分からねえ。だからソイツにどんな力が有るのかは分からねえ。そういう意味じゃ分かりやすい武器だとか防具みてえなのを選んでほしかった訳だが……まあSSランクって事なら腐るこたぁねえだ……」
そしておそらく言いながら、弓弦の表情から更に察したのかもしれない。
「おい弓弦。それ返せ」
「あ、ちょっと!」
「いいから」
鑑定用のアイテムを半ば強引に奪い取られ、宮下はそれを少女に向け……そして声にならない声を漏らした。
「……おい弓弦。これぁ一体どういう事だ!」
宮下が胸倉を掴んでくる。
「Dランクじゃねえか! それにチケットがその手にねぇって事は確定させちまったんだよなぁ!」
「す、すみませ……そ、その子が元居た所に帰りたくないって泣いちゃって、つい……」
「泣いてたってそんな理由でお前……」
「あ、あの!」
少女が割って入るように宮下の腕を掴む。
「ぼ、僕のマスターに……ら、乱暴な事……しないで……」
か細い腕から見て取れるように、きっと頑張って止めようとしている少女の力は弱弱しい。
それこそこちらのどうしようもない理由を聞いて、明らかに少し力が緩んでいた宮下の腕を動かせない位には。
だけどその行為が決め手となったのか、腕は動いた。
「……どうすんだよお前」
宮下は腕を離しながらそう言って、宮下が動いた事により少々怯えるように弓弦の後ろに隠れてしまった少女を見て言葉を紡ぐ。
「真面目な話三千万どころじゃねえ。もっと稼げるだけのチャンスが有ったんだぞお前には」
「す、すみません……」
「本当に馬鹿な事をしたよお前は……だけどよ」
眉間にしわを寄せてそう言った宮下は、今度は弓弦の首に腕を回して引き寄せる。
「あ、ちょ、ちょっと!」
慌てる少女をよそに宮下は、弓弦にしか聞こえないような声量で言う。
「それはそれ、これはこれだ。あのガキの前で助けた事は間違いだったみたいな事は言うな」
そこまで言ったところで再び少女が宮下にしがみ付く。
「あ、あの! ぼ、暴力は……! そ、そもそも悪いのは僕で……だ、だから僕が代わりに……」
「んな事できるかよ……」
そう言って弓弦を解放する宮下は軽く溜息を吐いた後、その場に座り込んで少女に問いかける。
「で、嬢ちゃん。名前は?」
「ぼ、僕の名前ですか?」
「ああ。そんで何ができる」
「えっと、僕は……その……」
宮下に気おされているのか中々言葉が出て来ない少女を見かねて、弓弦は言う。
「あ、じゃあ先にこっちの自己紹介だ。俺は弓弦。室月弓弦。ダンジョンで探索者……まあ簡単に言えば宝探しみたいな事をやってる」
「ゆ、弓弦さん……ですね。お、覚えました」
笑みを浮かべてそう言う少女。
「で、そっちの人が宮下さん。俺の雇い主だ」
「み、宮下……さん」
警戒心を向けながら名前を呼ぶ少女に宮下は言う。
「おう、宮下だ。よろしく」
「は、はい……よ、よろしく、お願いします。ぼ、僕、頑張りますから」
「頑張る?」
宮下の問いに少女は言う。
「ぼ、僕がお二人に、不利益を与えたってのは……わ、分かるから。す、少しでも取り返せるように、が、頑張らないとって……な、何をすればいいのかは、良く分からないけど」
「いや、大丈夫。何もしなくても」
自然と、そんな言葉が口から零れた。
「危ない事はさせられない」
本来の目的にこの少女を使うとなれば、即ち非力な彼女を危険なダンジョンで連れまわすという事になる。
それが駄目だと言う事は、流石に分かってる。
(どのみちDランクだ。これまで通りCランクの刀を持ってダンジョンを潜ればいい)
だけど少女は言う。
「あ、危ない事なら尚更……」
「尚更って……」
「おいお前」
改めて宮下が少女に問いかける。
「尚更って事は、そういう場で何かできる事があるのか?」
「は、はい」
そして少女は言う。
「怪我を……な、治せます……」
自分に秘められた力の事を。
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