夢の国には時計がない

Naml

Prologue



目を開けたら、そこは静かな草原だった。

風はやわらかくて、草の先で小さく鳴る音は、まるで声のようだった。


誰かが笑っていた。

どこかで鳥が歌っていた。

空は夕焼けとも朝焼けともつかない色で、何時なのかはわからなかった。


けれど、私は急がなくていいと知っていた。

ここには──時計がないから。


「おはよう」


声がした。振り向くと、帽子をかぶったウサギが立っていた。

そのウサギは、当たり前のように歩き、当たり前のように喋った。


「よく眠れた? 今日はいい日になるよ」


「今日は?」と私は訊いた。


ウサギはくすっと笑って、首をかしげた。


「そう言っちゃうけど、ほんとは“いつ”なんて関係ないんだよ。

 ここではね、時間は気にしないことになってるの」


私は、なんだか笑ってしまった。

確かにそうだ。ここでは、目覚ましも、ベルの音も、看護師の足音もしない。


ここでは、誰も何も、終わらせようとしない。


だから、私は歩き出した。やさしい声と花の匂いのするほうへ。

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