想い出すこと
第25話 想い出
「まず最初に知るべきこと。いや、思い出すべきことがあるの」
百合は花火が咲き乱れる中、隠すような顔でも困ったような顔でもなく初めて出会った時の心を見るような目で俺を見た。俺は息を深く吸って決意を固めた。
真実に向き合う決意を。
「私たちは夏休みが終わる日の夕方、学校にいたの。お花たちに水をやるためにね」
百合は静かに語りだした。
「水やりをした後、私たちはいつものようにこの公園を目指して歩いていったの。私は聖朱君の隣で鼻歌を歌って、君は楽しそうにそれを聞いてくれてて。それにね!その日は聖朱君も一緒に歌ってくれたんだよ!すごくうれしかった」
百合は涙を流しながらも笑顔で楽しかった時を思い出していた。
微かにながら脳裏にフィルムノイズと一緒にその時の光景が映し出される。隣で歌う百合に合わせて俺も一緒になって歌っている。
「でも、」
百合は目を伏せて一度、俺が決意を決めたように深呼吸をして、まっすぐ俺の目を見直した。
「私たちは公園に着く目の前で事故にあったの。
ちゅどすぐそこの角で、」
百合の言葉を聞くと同時に花火の音さえも聞こえなくなるほど周りが静かになった。
百合が手を震わせながら指さす方を見ると俺の背よりも少し高いくらいの塀の近くにい花束が添えてあった。あの時の記憶がフィルムノイズの掛かった光景が徐々に鮮明になっていく。
「今日で夏休み最後だね」
鼻歌を歌いながら百合はいつものように俺の隣で歩いていた。
「来週から学校かー、でも聖朱君に会えるなら夏休みでも学校の日でもあまり違いはないかも」
「俺も百合に会えるなら休みかどうかなんて関係ないかも」
「私はね聖朱君に会えるならそれでいいの。それでね時々ちょっとだけ欲を出すの」
「たとえば?」
「キス…とか?」
耳を赤くして目を背ける百合の頬に俺はキスをした。
「きみ、最近サービスいいよね。何かあったの?」
にやけ顔で百合は聞いてきた。
「いや?ただ百合に触れたいなって思っただけ」
「じゃあ私も」
そういって百合は俺の頬ではなく口にキスをした。
甘酸っぱいサルビアの蜜のような接吻。
「今日もうちに寄ってく?」
「ううん、今日は家に帰ることにするよ。だから公園で少し時間つぶさない?一緒に」
「うんいいよ」
空の色がグラデーションになって明るい色と暗い色が溶け合う町は少し薄暗かった。
俺と百合はいつものように公園の目の前まで来た。
瞬間、
目の端に白い光が見えた。
「聖朱君!!!」
その光は衝撃とともに俺と百合を包み込んだ。
「そのとき、私たちは別れた」
記憶が途切れたあと百合はいつの間にか語り終えていた。
信じたくなかった。でも否定もできなかった。記憶として思い出されたことが今よりも少し先の未来でいや過去でそんなことが起きるなんて。
受け入れようとも受け入れがたいことに呆然としていると百合は言葉をつづけ始めた。
「あの事故の後、聖朱君は病院に運ばれた。そして病院で目覚めた聖朱君はある事実を聞いた時、自分を責めて永い眠りについたの」
追い打ちをかけるように百合は俺の知らないことを話した。
「どのくらい」
やっと出た声は自分でも思うほど冷たく震えた声だった。
それでも百合はふっと優しく笑ってくれた。
「何十年も、だよ」
「じゃあ、あることって何?」
「それは、自分でもわかってるはずだよ」
胸に矢を刺されたような気がした。認めたくなかった、考えたくなかったこと。でも俺は決めたんだ。
この結末に向き合うって。
「ずっと妙だったんだ。この夏休みに既視感があって、懐かしさがあったことに」
「最初はただの気のせいで夢で見たことが正夢になってるだけだって思うことにしてた。」
「でも、百合の家に行った時、不思議な写真を見て胸がすごく痛くなった。それと同じくらいに安堵感もあった。百合に聞いても振り返るとその写真は消えてたけど」
「その後、映画を観たときにもあの映画の結末に深く刺さるものがあった。それは感動とかそういうんのじゃなくて俺自身を指しているような気がしたんだ」
「今思えばきっとあれは気がしたんじゃなくって本当だったんだと思う。変だよね」
「変じゃない、変じゃないよ」
百合は優しく手を握ってくれた。
花火はまだやり止まないままだ。
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