第17話 フィルムを繰り返して
巨大な水槽があるエリアを抜けて薄暗いエリアに着くと花火のように咲いて見えるライトアップされたクラゲたちが水槽のなかで優美に泳いでいた。
不意に水槽の中に映る百合と目が合うと百合はふっと優しく笑っていた。
だから俺も笑みを返した。
上へ上へと水面まで上がっては水槽の底までゆったりと落ちて行って、底につきそうになるとまた同じように水面に向かって泳ぎ始めいていく。
時折、クラゲ同士でぶつかっても何事もなかったように繰り返し水面を目指しては底に落ちて行ってを繰り返していた。
まるで映画の好きな場面を何度も繰り返し観ているような気分だった。
ずっと見ているとまた巨大な水槽で見たときのように、フィルムノイズのようなものが水槽に走り出した。
-----
「きれいだね」
「うん」
「百合はなんでこの子たちが同じことを繰り返すんだと思う?」
「うーん、空を目指すためとか?」
「なんで空を目指すの?」
「それはわからない。でも、たぶんクラゲたちにとってはその行動が希望なんじゃないかな」
「どういうこと?」
「君が、聖朱君が今本当に目指しているものと同じってこと」
「余計にわからなくなった」
「ふふ、まあそのうちわかるよきっと」
「さ、次にいこっか」
よくわからない会話の後、今度は百合が俺の手を取って奥の方に進みだした。
百合の背中を見ているとまた、フィルムノイズのようなものが映し出され百合の背中が徐々に見えなくなっていってしまった。
-----
気づくと水槽の前に立っていた。正確に言うと立ったままだった。
また心配させてしまうんじゃないかと思って百合の方を見ると相変わらずクラゲに見惚れていた。百合の顔を覗いてみると瞳が揺れているように見えた。
やがて、揺れている瞳からまるで花弁から一滴の水滴が滴るように一粒の涙が零れ落ちた。百合は気づいていないみたいだ。でも俺は涙が流れていることを言わなかった。いや、言えなかった。言おうとすると喉奥が詰まる感じがして言えなかった。
「どうしたの?聖朱君。さっきからずっと私のこと見てるけど」
百合を見つめていると不思議そうに首をかしげながら訪ねてきた。
「ううん、なんでもない。ただクラゲに見惚れてる百合を見てただけ」
「なんかちょっと照れるよそれ」
頬を赤らめながら百合は言った。
「そういえばさ、聖朱君はなんでクラゲは上を目指すと思う?」
さっきみた覚えのない記憶の映像の中で俺が百合に聞いたようなことを百合は聞いてきた。まるでさっきの会話をこっちで続けているかのようだった。
「空を目指すためかな」
だから俺は記憶の中の百合が答えたように答えて見せた。
「じゃあ、なんで空を目指すの?」
俺が聞いたように百合も聞いてきた。
「空に飛び立つことが希望だからかな」
だから俺はまた記憶の中の百合と同じように返す。
「それじゃあ聖朱君にとっての希望は何?」
記憶の中とはまた違った会話に進んだ。
まるで選択肢を託されたゲームをプレイしているみたいだった。
「百合と一緒にいるこかな」
「照れますな」
ゆるんだ頬を隠すためか百合は顔を隠してにやけていた。
「逆に、百合にとっての希望は?」
気になってつい聞いてみてしまった。
「聖朱君とが一め緒にあざのまだめ咲てくかなれいるマリーゴールドが咲くのを見ることかな!」
「え?ごめんなんて?」
百合の言葉が二重に別々の言葉が重なって聞こえて百合の言っていることが聞き取れなかった。
「えー?だから、聖朱君と一緒にまだ咲かないマリーゴールドが咲くのをみること!もう、ちゃんと聞いててよね」
「ごめん」
「いいよ、べつに。でも、約束だからね」
「うん、約束だ」
約束。前にも同じような約束をしたような気がした。それもずっと前に。
今日の俺はどうもおかしい。妙にたくさんの既視感や突如として映し出された覚えのないけど体験したことのある記憶。そして百合との会話。少しだけ、いやかなり怖く思う。でも、そんなことよりも今は百合との時間を大事にしたい。
「ねぇ百合お腹すかない?」
「ん!確かに空いてきたかも」
「じゃあ、館内のレストランに行こっか」
「うん!」
手をつないで俺と百合はレストランに向かって歩き出した。
君はまだここにいたいの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます