6章霧谷市

79話新たな装備


──宵闇市・探索者管理局 メンテナンスルーム。


「……これは、もう修復は無理ですね」


涼花の前に置かれたのは、鳴斬のひび割れた刀身。


かつての切れ味は影も形もない。

職員は申し訳なさそうに首を振った。


「どんな名工を呼んでも、ここまで壊れてしまっては……新しく買い直すしかありません」


「……そうか」


涼花は短く答えると、静かに鳴斬をケースに納めた。

これまで幾度も死線を共にした【鳴斬】。別れは、重かった。


――


その数日後。


涼花は、宵闇市からバスや電車を幾つか乗り継ぎ、装備製作で名を馳せる都市――**鋼鎧市(こうがいし)**へと辿り着いた。

 

“探索者の聖地”と呼ばれるこの街には、死闘を経て集められたモンスターのドロップした強力な装備や遺物。

最新設備の装備工房が軒を連ねている。

 

つまり、金さえあれば最高の武具が手に入る都市と言う事だ。そして俺はBランク探索者、すなわち上位の探索者の一人になった。そして宵闇市の活躍でかなりの資金を入手出来た。しかも霧谷市の準備資金として更に追加の資金も貰った。金額は数字にして約二千万前後。


「二千万……。これだけあれば余裕で最高級装備を揃えられるな」


豪遊気分で工房の扉を押し開けた涼花は、装備を早速見ていく事にする。まずは武器からだ。


「こちらは魔導槍雷牙、電撃属性に特化しておりまして……」

 

「こちらはドロップ産の大剣血喰らい、攻撃力は他の最高級ランクの武器と比べても群を抜きますが――武器を振るう事に使用者の魔力と生命力を吸い上げる代償が……」


工房を回るたび、涼花の前には次々と武器が並べられた。どれも一級品、どれも魅力的だ。だが――


(性能は十分すぎる程強力だが……槍はリーチは魅力だけど、扱い慣れてない。これから世界屈指の危険エリアに行くんだ……扱いなれない武器種で行くのは遠慮したい。)

 

(血喰らいは強いが……あんなリスクの高い武器、今の俺には荷が重すぎる……もし使うならそれに合ったスキルを作る必要がある……霧谷市では何があるか分からないからスキル作成のリソースはそっちに使いたい。)


涼花は幾つもの武器を手にし、何度も試し斬りを繰り返した。そして最後に手に取ったのは、刀身に淡い蒼光を宿した重量剣――《月影》。


「……感覚が鳴斬に似てる。重量も、振りの感覚も……それでいて、魔力の流れも段違いに滑らかだ」


「これは最新の技術で作られた最新世代の武器、前世代の武器とは比べ物になりませんよ。瘴気浄化の特性を備えているので、高濃度の瘴気の影響下でも耐性があり、さらに自動修復作用があり、激しい戦闘が続いても簡単には壊れません。」


「……決めた。これにする」


――結局、どんなに魅力的な品が並んでいても。

最後に手に馴染んだのは、これだった。

 


「こちら最新式の魔導剣月影、お値段は――一千五百万です」


「……は?」


提示された額に思わず声が漏れた。

そしてさらに追い打ちをかける店員の笑顔。


「最高級防具一式も購入なさるならこの値段と同等か、これよりもう少し上を見ていただくことになりますね」


「ソ、そですか……」


結局――

武器に1500万を支払い、残りの資金で最高ランクの防具を揃えようとしたが到底資金が足りず、いくつかの部位の防具のランクを下げてやっと形に収めた。


宿に戻り、購入した装備を並べながら、涼花は頭を抱える。


「……あんだけ命張って、稼いだ報酬が……また装備代だけで吹っ飛んだんだけど?探索者って稼げる職業じゃなかったのか?」


《それが探索者です。主。上に行けば行くほど稼ぎは跳ね上がりますが、それ以上に装備と維持費が重くのしかかる。“前より金が増えたのに、前より金が足りない”――これは探索者にとって常識的な知識です》


「そんな常識、聞きたくなかった……!うぅ……」


涼花は新しい愛剣の鞘を睨みつけながら、財布の軽さを噛みしめた。

 

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