女二人で元カレ捨てる。

緑茶

#1

 わたくしがその男を殺したのは、なんのことはない、浮気をされたからであった。

 姦夫、大淫夫。

 しかしどうしたものか。

 わたくしはその男だったものの脳天に深々と突き刺さったキッチンナイフの銀色を見つめて思案する。

 すでに茶色くなって硬くなってきているものの、女ひとりの手で、そうやすやすと地面に葬り去ることができるわけでもなし。苦闘のすえに未練が復活してしまう可能性もある。

 うーんうーんと唸っていると、いつの間にかわたくしの傍らにひとりぶんの影が立っている。

 すわ、ポリ公かと思った。やらいでか、公権力め。


「なんだ。先越されちゃった」


 そこにいたのは、ぎんぎらぎんのむくつけきギャルであった。

 すなわち、男の情婦であった。



 わたくしはギャルというものが嫌いで、すなわちそれはあまりにも軽薄で、自己の存在を簡単に外側に置きすぎているからだった。友人との姦しいさえずりやSNS、はたまた着飾った姿そのもので、簡単に他者や社会と繋がってしまう。その過程で、色々なことが犠牲になってしまう。少なくともわたくしは学生時代、そういったことの割を食ってきた……一種のコムプレックスと呼んでも差し支えがなかった。


 ゆえにわたくしは心を許すわけにはいかなかった、その女に。

 落ち着け、心を頑として凪に保て、こやつは仇敵なのだ、断じて……。


「きれいな目してんね。もうちょい前髪あげてもいいと思うよ」


 ……参った。ギャルはギャルだ。

 ギャルはすべてを蹂躙する。ゆえにわたくしもあっさりと陥落する。

 数十秒後にはわたくしは、外見とは裏腹のやさしいかおりの香水を感じながら、すべてを話していた。

 彼女は驚き、憤り……ほんのわずかだけ悲しんだあと、自ら協力を買って出た。

 結局、わたくし達は二人とも、騙されていたのだ。

 ギャルですら立ち向かえない、いまだ覆っていない大きな社会の理不尽がそこにあった。


「海、行こうよ」


 彼女は笑っていなかった。

 だから信頼できた。


「遠くに捨てて、流れていってぐちゃぐちゃにふやけてさ。なくなったら。本当にこいつが居なくなるって、思わない?」


 そして、わたくしたちは旅に出た。

 簀巻きにされた元カレを担いだ二人の女が、その価値をゼロに貶めるために。


 ローカル線を乗り継いで、遠くの海に、ふたりで、旅をした。

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