第20話 メンヘラたぬきの独占欲が強すぎる…
「
「……魔力器?」
セシリアの言っていた言葉。
てっきり彼女の所属している組織内だけで用いられた言葉なのかと思ったが、どうやらそういうわけではないらしい。
だが並みの大人よりも勉強に励んでいたルイスでも、更に前世のゲームの知識を持つ僕でも初めて耳にする単語だった。
その響きは、どこかこの世界の底、根源、禁忌に触れているようで―――ぞくりと、不気味な感覚を覚えさせた。
「魔力器は魔力を生み出す根底の器官ですよ。
人間は魔力器を越える量の魔力を扱うことができないのですが……。
実際に見て貰った方がわかりやすいですね」
そういうとビヨンは
暖色の色合いは個人的には許せなかったが、まぁタヌキのやることなので敢えて口は挟まない。
「このコップがご主人の魔力器。
中の液体をご主人の魔力とイメージしてください」
液体はコップの縁並々まで注がれている。
魔力器とは言葉の通りで、魔力を入れる器のことなのだろう。
説明されればわかるものの、魔力を見ることの出来ない僕らにとっては必要性のないということも理解できた。
体力という言葉があっても、体力の上限や消費量を数値化できないのと同様だ。
「通常魔力を使った場合はこの中の液体を消費します」
そういうとコップの中の液体の一部が氷に変化させ、コップの中から排出した。
その結果コップの中の液体は10分の9にまで目減りしてしまった。
「うん、一般的な魔法のイメージはそんな感じだね」
ここまでは魔法を使ったことのある人間にとっては共通の認識だった。
使えば減る。そして寝たりご飯を食べたりとリラックスすれば回復する。
自然回復の他にも、この世界では魔力を回復させる専用相手も有ったりはする。…ただしべらぼうに高いが。
「対して
コップの縁の一部が剣へと変化する。それは小さな剣ではあったが―――
欠けた部分から液がとめどなく零れていく。
暖色だった色が、まるで命が零れ落ちているかのような不気味さを醸し出していた。
取り出した破片は全体の100分の1程度だった。
結果的には魔力は5分の4まで目減りしていった。
「器の方を使うから余分に魔力が漏れ出てしまうのか……」
「はい、だからこそ特に使う順番とタイミングが肝要ですね。
今回は
だからこそ
僕の現在の魔力器は、きっとボロボロなのだろう―――って、あれ?
「これ使い続けると、そのうち魔法を使えなくなるのでは?」
器を使うということはその分作られる魔力量も減っていく。
それは不可逆的であり、いずれは魔法を全く使えなくなるのではないか。
つまり強すぎる力には代償が付きものということなのだろう―――
「いえ、普通に
「なかった、代償。
全然使い放題だった」
ありがたい話ではあるのだけれども。
「今回消費量が大きかった理由がよくわかったよ。
むしろこの魔法、考え方によっては燃費がいいよね?」
改めてコップの中の水に目をやった。
本来の魔法ならばこの水を使い切ればそれでおしまいだった。
だがこの
倍とまで言わないが、使い方さえ間違えなければかなり効率的に魔法を行使できるはずだ。
「はい、そういう目的で作られた魔法です――――と聞いていますので」
「聞いてるって、ビヨンにこの魔法を教えた人?」
「……そんな感じですね」
ビヨンは右斜め上を向いた。虫でもいたのだろうか?それとも猫が虚空を見つめる系のあれだろうか?
ただ
落ち着いたらビヨンに師匠を紹介してもらう。
修行編とかとても心躍る展開だし。
「大体の状況はわかったよ。
燃費のこともあるし、何よりこの禁忌の魔法がバレない為にも普段は通常の魔法。
いざという時や暗躍する時には
普段はどこにでもいる青年。
特徴もなく、人畜無害、草食系男子であり、不良に絡まれればひぃ~と言いながらお金を渡すそんな男。
だが仮面をつけると一躍雰囲気が変わる。
彼は敵か味方か。正義か悪か。
誰一人、彼の本当の目的を知るものはいない――――
「…ないです」
「?」
妄想に
けど…あれ?いつもそんなペットみたいな鳴き声いままでしてたっけ?
「この魔法のシステム的に、一般の魔力から使ったほうが効率的って話だよね?
「それが大変恐縮なのですが……出来ないのです」
「出来ない?何が?」
「
この世界で普及している一般魔法を今のご主人では使うことができません」
「……はぁ?」
ビヨンの言葉に僕は手に持っていたリンゴの破片を手にして魔力を込めた。
リンゴを甘くする魔法。溶かしてジュースにする魔法。中の種を急速に成長させる魔法などetc。
だがどの魔法も不発に終わる。
というよりも魔力が上手く込めることが出来ないでいる。
「ごめんなさい、ご主人。
契約時にちゃんと言うべきだったのに」
しょんぼりと耳を垂らし、謝るビヨン。
確かにビヨンの言う通り、そんな大切なことは契約時に伝えて貰えたら一向の余地があったのかもしれない。
だけど―――
「気にしなくていいよ、ビヨン。
仮に予め知っていたとしても、僕はこの選択を選んだのだから」
そう、だから意味のない仮定なのだ。
僕はどれだけ時間をやり直しても、
「それに強すぎる力には代償が付きものだからね。
きっと
「いえ、全然違います」
「そっかぁ……全然違うかぁ―――」
うん、今日の僕はダメそうだ。
ただそれはそれで少し興味があった。
力の所為でないとしたら一体どういった理屈で魔法が使えないのだろうか、と。
「だってご主人が私の渡した栄光の到達点(ビヨンド・ザ・シャイニング)以外を使うとか嫌じゃないですか?」
「…えっと?」
「いやだってご主人も嫌じゃないですか?例えばプレゼントを渡したのに次の日にそれを使ってくれなかったりとか、あとは自分の恋人が他の女からのプレゼントを付けていたりとか嫌だと思うんですよね、ご主人もそう思いますよね?ですから栄光の到達点(ビヨン・ザ・シャイニング)には一度使うと他の女の魔法が使えなくなるプロテクターを付けていたんですよ、本当は初回使う前にお伝えするんですがなんだか流れで伝え忘れていたのは本当に申し訳ないと思いますが、それでもご主人が良いって言ってくれたのは本当に眷属冥利に尽きるといいますが、私のご主人がご主人でよかったなって思いました、はい」
「…」
ビヨンは高揚を隠し切れないと言った風に饒舌に語りだした。
その早口さもさることながら内容にもドン引きしていた。
「…メンヘラたぬき」
「へっ?」
僕は小さく呟いた。
元黒幕系メンヘラタヌキ。
もしかしてこの世界線での破滅ルートは、メンヘラの暴走によるものなのだろうか?
「理屈はわかった。
あとは練習して――――」
なんてことを考えていると唐突に喧噪が聞こえ始めた。
物静かだった屋敷に反響する足音。それは確実にこちらに近づいていた。
なんだか胸騒ぎがある。理由を一考する。
そうだ、
僕は慌てて
だけど未だ不安感はぬぐえない。
まるで忘れていた“何か”を責め立てるような、心の奥底から僕の罪を糾弾するような、そんな不安感を覚えた。
なんだろう―――、そんな疑問を他所にシイナが現れた。
「ルイス様、ご無事でしたか」
「シイナ、どうしたの?
そんなに慌てて珍しいね」
ちらりと再度周囲を確認する。
まるで隠れて遊んでいたゲームを慌てて隠した、そんな気持ちだった。
だがシイナの表情をみて、すぐに僕は考えを改めることとなった。
「セシリア様を乗せた馬車が何者かに襲撃されました。
そしてセシリア様は……現在誘拐されています」
「……そうだ……今日しかありえないじゃないか……」
セシリアに会った時に感じた疑問。
どうしてルイスの魔力器の変化を気づける彼女が、ゲーム内でルイスのことを疑わなかったのか。
答えは単純だった。
ゲーム内のルイスは
きっと感染症の可能性を考えて、セシリアは面会すらできなかったのだろう。
そしてルイスが完全に
少し考えれば思いつく結論だった。
だからこそ僕は自分の無能さを呪った。
自分の内から湧き上がる怒り。
とある世界で、奪われた瞳を取り戻すために、たった一人で世界を敵に回した存在。
それが、“ルイス”のものだったと気づいた。
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