長い長いあとがき……
@masako3150kyakuhonka
第1話 あとがきから始まるストーリー……
長い長いあとがき ―この物語が完成するまでの道のり―
長い長いあとがき
研究者、ラントス・D・ルージュ
“謎に包まれた英雄ジャンヌの真実と生涯”楽しんでいただけただろうか。
私がジャンヌという存在を初めて知ったのは王宮の大学院にいたころである。
そのころ私は王宮の歴史研究員だった。
ある古い書物の様な紙切れが3枚程見つかったのだ。しかもそれは王宮図書室の他国史の本棚の一番上、はしごを伝って登る場所に保管されている本だった。
私は教授に本棚の整理をさせられていた。
もっぱら他国史には何の興味も無い私であったが、その紙切れには何だか言いようのない恐怖感の様なものを感じた。気味が悪く、すぐに本を返そうと思ったのだが、まがりなりとも私も研究員のはしくれであり、ふと、これが何なのか調べたいという衝動にかられた。
優等生であった私は教授の信頼も厚く、勝手に教授の許可なく何かを持ち出すなど考えた事もなかったが、その時はじめてコートのポケットにその紙切れを忍ばせた。
『なに、このくらい。一週間もあれば解読できる。何か解ったらすぐにかえせばいい。』
そんな安易な気持ちで私は王立研究員宿舎の自部屋に持ち込んだ。
―それが全ての始まりだった―
一週間で終わるはずのこの研究がまさかこんなに時間のかかるものになるとは・・・。
その紙切れがきっかけで私は、我が国の一番の同盟国であるクレイナバ国の第十七代女王“フローラ・フォン・デュルジュ”の側近、謎に包まれた生涯を送り、その生涯や功績はすべて国の命令により破棄されたとされる女性最大として最高の白魔術師とうたわれた英雄“ジャンヌ・ルデオ・ダスティン”という一人の女性の生涯を研究する決意を固めた。
当時の教授に話すと「実に馬鹿げている!君は何を考えているんだ!そんなの無理に決まっているじゃないか。教授会でも君には期待している学者も多くいるんだよ。君のおじい様であらせられるデルモンド名誉博士が生きておられたらさぞ嘆かれる事だろう!」
と一喝され「まぁ、君もまだ若いから。一時の気の迷いもあるだろうが・・・。よーく考えたまえ、君は我が王国の将来有望な歴史学者になるだろうと期待されている人間なのだよ。そんな君をみこんで私が引き取ったのだからね、ラントス君。私をあまり失望させないでくれたまえ。せっかくの有望な君を失いたくはないからね・・・。」と、肩をポンポンとたたかれそのまま教授室を出て行ってしまった。
私は見つけたその紙切れを教授に見せるつもりであったが、この“ジャンヌ・ルデオ・ダスティン”という一人の女性の秘密にはこの国家史を根底から揺るがす重大な何かがあるに違いない、この国家が塗り替えた歴史の真実に辿り着くのかもしれない。
この紙切れを今教授に見せれば、唯一の手がかりであるこの紙切れすら闇に葬られる可能性だってある。今はまだ見せる段階ではない。
事は慎重に運ばねば・・・。
私はこっそり一人で研究する事を決めた。
誰にも悟られず研究する事は容易ではないが、今考えれば、だからこそこの真実に辿り着いたのかもしれない。この王立研究員の誰かと一緒にやろうとしていたら、この真実を隠したい誰かがでっち上げた嘘の資料を作りだし、国家規模でそれを真実とする論文を発表されたかもしれない。
次の日私は何食わぬ顔して教授に頭を下げにいった。
私が若輩者であったが為の一時の気の迷いであり、今後は余計な事は一切考えず自国史の研究のみに全身全霊をかけて取り組み、精進する。そう教授に伝えると教授から思いもよらぬ答えが返ってきた。
「君ならそう言ってくれると信じていたよ、ラントス君。実は昨日、君の事を王様に直にお伝えしたんだよ。『我が国の自国史研究において実に有望な研究員がいる』とね。王様から直々に許可を頂いたんだ。喜びたまえ。君は今日から私の専属助教授として研究が出来る。まぁ、若すぎる所はあるが・・・。君ほど優秀な研究員を下級研究員にしておくのはもったいなくてね。早速、研究員の自部屋から助教授部屋に移りたまえ。助教授部屋には使用人も与えられるぞ。」
思いもよらぬ展開に私は目を丸くした。普通なら下級研究員から、中級、上級とあがり、そして助教授になるまで普通は10年・・・いや早くても7年半はかかると言われている。
「私はまだ若輩者です!!その様なだいそれた・・・」
と反論するとすぐさま
「何を言ってるんだね。私が君ぐらいの頃はもうすでに中級研究員試験をパスして上級研究員の勉強をしていたんだよ。早すぎることはない。それにいつから君は私にそむく様になったのかね?王様のご命令だ。今日は仕事は休んで良いから、さっさと準備したまえ。後で君の使用人が迎えに来るだろう。その研究員服は今の自部屋に置き、新しく君に用意された部屋には教授服があるから、明日からはそれを着てきなさい。」
教授にはそれぞれ3人づつの使用人が国より与えられるのは知っていたが・・・20になったばかりの私に・・・?
中級研究員の試験も上級研究員の試験も、ましてや助教授試験も受けていないのに・・・?
「ですが・・・。」
「なんだね。まだ不満があるのかね?」
「そんな訳ではありません。ただ、上級試験も助教授試験も受けてない私が助教授になるのは・・・仲間は納得するでしょうか?それにまだ若い私に使用人など・・・。」
「それは心配ないよ、ラントス君。君がこの前書いた論文、あれを王様に差し出した所、王様が直々に読まれ、こんな優秀な人間を下級研究員にしておくとは、王立教授会はなにをしているんだ、と教授会に苦言を呈されたのだ。これは王様のご命令。これ以上の試験があるかね?それに使用人は教授職を滞りなく進める事が出来るようにとの王様の温かいご配慮。そしてそのお陰で失業者を作らないこの国の方針も保たれる。自国史の研究が進めば、ひいては国の利益、そして仕事のない国民も救われるのだよ。もちろん君自身のためでもあるがね。」
なんとも納得のいかない話だが、私がこの命令に背けば、間違いなく処刑はまのがれない。そうなれば折角出会った“生涯をかけて研究したいテーマ”の研究もできなくなってしまう。私は仕方なくそれに従った。幸い研究員の友人たちは異例の大出世を
「さすがラントス!王様のご命令でなければ文句の一つも言ってやるところだが、これは君の実力だよ。早く名誉博士になってあの偉そうな教授たちの鼻をあかしてやってくれ!」
と快く祝ってくれた。
だが、からくりは簡単だ。
その夜、よくよく冷静に考えると矛盾点など山ほど出てくる。結局こういうことだ。ジャンヌの研究をすると言った私に困った教授達が王様に直訴し、ならば自国史の研究のみに従事させる方法を、と私の師匠、自国史の第一人者“アルガン教授”の専属助教授と言う立場を与え、他国史など二度と研究出来ない様にと縛り付けたのだ。“使用人”はいわゆる国家スパイだろう。私がちょっとでも変な行動を取らない為の見張り役でしかない。ここまでされると、ますます私の研究心に火がつく。私は折り目正しい優等生の“自国史助教授ラントス”を見事に演じきった。教授たちの誰もが私を疑わなかった。月に一度、三日だけ与えられる休みを利用して、この世界一の大国“クレイナバ”へと足を運んだ。
-だが手掛かりはなかなか見つからず一年、二年と過ぎていく-
・・・そして、何のてがかりもないまま、8年が経過してしまった・・。全く、一つの国家というこの組織は、ここまで完璧に隠ぺいと言う仕事をやり遂げるのかと感心してしまう。
そんな時、私は若くしてこの国の女王になったレオナ・セラニアム・ロートルート女王陛下に謁見する機会を得た。
「私に会いたい・・・?まさかこの研究を続けているのがばれたのか?」
・・・その時はさすがに死を覚悟した。私を助教授に推薦した『アルガン教授』は私を疑った様子もなかったし、私につけられた使用人たちも特別変わった様子はなかったが・・・。
「自国史研究アルガン名誉博士の助教授、ラントス・D・ルージュでございます。女王陛下に謁見のご機会を賜り参った次第にございます。御取次をお願い致します。」
「陛下様、ラントスが参りました。」
「通しなさい」
「かしこまりました。どうぞお通り下さい。」
「・・・失礼いたします。」
頭の中では情けない事に言い訳がぐるぐると回っていた。何を聞かれるのか・・・
正直、冷や汗が出た。小心者ラントス!しっかりしろ!一生をかけて研究すると決めたのではなかったのか!?・・・心の中でそう言い聞かせながらも、いざ、処分されると思うと、急に人間は恐ろしくなるものだ。
「女王陛下におかれましてはご機嫌麗しく・・・」
「アルガン博士とこの者と3人で話がしたい。皆、下がりなさい」
「かしこまりました。女王陛下様。」
部屋中の使用人、侍女、側近たちが部屋を出ていった。部屋に入った瞬間から気付いていた。アルガン博士が女王陛下の横にいたのは。
・・・さぁ、一体何が始まるんだ・・・?
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