攻略対象は悪役令嬢
皇冃皐月
第1話 悪役令嬢転生
「あの車……信号無視してきそうだけど、早く帰りたいし、さすがにこっちが止まる気見せなかったら止まるよね」
ハンドルを握りながら、目の前の信号を見る。しっかりと緑色が灯る。
助手席にはさっき閉店間際に購入した『ロマンス・レヴェリィⅡ』がある。新作乙女ゲームだ。前作は大学生の時に発売され、単位そっちのけでやり込んだ私の大好きなゲームだ。
――早く帰ってやりたい。
あくびをしながら、交差点に侵入し……車体は激しく揺れ、酷い衝撃が全身を巡る。暴走車に横から追突され、私は意識を……失った。
◆◇◆◇◆◇
「ああ……頭いった……いですわ」
頭痛とともに目を覚ますと、見慣れない豪奢なベッドとカーテンに囲まれていた。
病院にでも搬送されたのだろうか。ちょっと病室というような雰囲気ではないが。
まあなににせよ、生きてる。
その事実があるだけでとても素晴らしいことだ。
なんて思いながら視界の端っこにあった鏡が目に入る。
角度的にちゃんと見えないのだが、本来私がいるべき場所に私じゃない人がいた。金色の巻き髪がちらちら鏡に映る。私は何年も手入れしていない黒髪ロングだ。金髪……しかも巻き髪なんて縁のないものだった。
「……んっ、んん?」
ありえないことが起こっている。
焦って鏡の前に駆け寄る。
「ええ、嘘」
そこに映ったのは、金色の巻き髪と深紅の瞳を持つ少女の姿――クラリス・ロートシルト。乙女ゲーム『ロマンス・レヴェリィ』の悪役令嬢だ。
「悪役令嬢、クラリス・ロートシルトに転生してますわッ!」
クラリス・ロートシルトは婚約者である王太子に婚約破棄され、破滅の断罪エンドが待っている。
それが悪役令嬢というものなのだ。
私はそんな悪役令嬢に転生してしまっていた。待ち受ける未来は、死ッ!
じゃあ悪役令嬢になったから素直に死んでくださいと言われて死ぬかと言われればそんなことはない。
抗うだけ抗う。
だから私は、絶望的な
波風を立てず、目立たず、静かに生きてやる。
まあ悪役令嬢に転生したってことは、きっとこの世界に転生させたなにかが、そういう展開を望まれているのだろうし。
伊達にオタクをしていない。悪役令嬢ものの作品だって何作品も触れてきた。
オタクを舐めるなよ。
そう決めた時のことだった。
部屋の扉が開く。
「クラリス様……。お目覚めになられましたね」
扉の向こうから、セリシア・ブランが柔らかい声で呼びかけてきた。
セリシアはこのゲームのヒロイン。
清楚で努力家で、王太子の本命だ。普通なら私のことなど目にも留めないはず。なんならここに居ること自体おかしい。
いわば同じ相手を好きになった恋敵。ライバルである。
少なくとも私の知っているシナリオではありえない光景が目の前に広がっている。私は目を擦った。夢でも見ているのかなと。だけれど夢でも幻覚でもなく、現実であった。
彼女は私をじっと見つめている。
まるで――恋する乙女のように。
私が戸惑っていると、セリシアは恥ずかしそうに笑った。
「やっとクラリス様の元で働くことができました。クラリス様の為ならば死ぬことだってできます」
「な、なに言っていますの? それは……」
意味がわからなすぎて語彙力が消滅していた。
本来なら敵対する存在であるはずのヒロインが、なぜ私にこんな感情を抱いているのか。なぜ私の元で働いているのか。
「セリシア……セドリック王太子とはどのような関係で?」
一応情報を整理することにした。
「ふふふ、寝ぼけているんですか? クラリス様」
「え、ええ。そうかもしれませんわね」
「クラリス様との婚約を破棄されて、私に求婚してきたのでお断りしたじゃないですか」
「ええ、なんで!?」
「なんでって言われましても。それは……ねえ? ほら、言わなくてもわかるじゃないですか」
指先をつんつんさせながら照れるセリシア。ほんのりと頬を赤らめている。
「私が……クラリス様のことをお慕いしているからですよ」
セリシアは瞳をとろんとさせていた。
これはもう紛うことなき恋する乙女だった。
もしかしてこの世界のセリシアの攻略対象は……王太子でも他の攻略対象キャラでもなくて、悪役令嬢である私なのでは?
なんて絶対にありえない結論に至った。
この世界……明らかに、私の知ってる『ロマンス・レヴェリィ』じゃない。
ヒロインが悪役令嬢に惚れてるなんて、聞いたこともない。
だったら、もう私にはゲームの知識は通用しないってこと?
……まずい。
これ、バッドエンドすら予測不能な、未知のゲームが始まったってことじゃない?
私に破滅フラグ回避できるのか???
◆◇◆◇◆◇あとがき◆◇◆◇◆◇
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