約束の松ー桃の勇者ものがたりー

クリヤ

(1)人が消えていく村

 「だからね。持てるだけ持っていっていいんですよ。

  その代わり、本当のことは言わない約束ですよ」

 その若い隊士に向かって魔のものは、そう言った。



 シロウは、貧しい村で生まれ育った。

 冷たい風と石ころだらけの荒れた土地。

 領主は、領民を土地に縛りつけるくせに、土地の改良はしようとしない。

 水は少なく、食料が見つかりそうな山には領主の許可なく入れない。

 大人も子どもも、いつも腹を空かせていた。

 年貢は上がる一方で、領民は、長い間の搾取に疲弊していた。


 数年前から、朝目覚めるたびに、同じ村の人が消え始めた。

 隣のおじさん一家も、少しだけ憧れていた少女の一家も消えてしまった。

 村の大人たちは、ヒソヒソとウワサ話を交わしている。


 いわく、消えた人たちは、夜の間に魔のものに連れ去られたのだと。

 いわく、連れ去られると、恐ろしい魔のものに喰われてしまうのだと。

 いわく、喰われなかった人は、死ぬまで魔のもののために働かされるのだと。


 大人は子どもたちには分からないと思って話をしているのだろう。

 けれども、子どもたちはそれぞれが耳を澄ませて、その話を聞いていた。


 「次に消えるのは、誰なんだべな?」

 「オラは嫌だ。魔のものに喰われちまうなんて、おっかねぇ」

 「殿さまは、助けてくれんのかな?」

 「助けてなんてくれるわけねぇ! 

  オラたちが作った米も野菜もみ〜んな持っていっちまうだけだべ」

 「んだなぁ」

 「あのな、連れていかれたくなかったらな。

  家の裏にな、松の枝を束ねてぶら下げとけばいいんだってよ」

 「松の枝? そんなもんで、いいのかよ?」

 「魔のものはな、松が嫌いで近づけねぇらしいぞ」

 大人たちは不安がりながらも、なんの対策も取れずにいた。

 一方で、子どもたちは、どうにか家族を守ろうと魔除けを作っていた。


 それでも、村人が消えるのを止めることはできなかった。

 むしろ、松の枝で作った魔除けをぶら下げた家から、どんどん人が消えた。

 魔除け作りに関わった子どもたちは、自分たちのせいになるのを恐れて、口を噤んだ。

 そのため、大人たちは、どうやって消える人が選ばれているのか気づくことはなかった。


 数年後、大きく人が減った村で、少年だったシロウは若者へと成長を遂げていた。

 置き去りにされた田畑は、その近くの者たちが耕すことに決められた。

 人手不足は辛いけれども、人が減った分だけ食糧不足が解消されることになった。

 そうやって、どうにかこうにかシロウは大人へとなったのであった。


 農作業とそれ以外の土木作業なども自分たちでこなすのが当たり前の村だったから、若者になったシロウはスラリとした見た目から想像するよりも、しなやかな筋肉に包まれた頑健な体を持つようになっていた。


 農作業が終わって、山の端に沈もうとする橙色の夕日を見る時に、時折り、シロウは消えてしまった幼なじみたちや近所のおじさんたちを思い出すことがあった。

 けれど、日々の暮らしの中に紛れて、それ以上を考えることはなかったのである。

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