第16話 ポエム 京都永観堂みかえり阿弥陀如来
その日、
人間関係につかれたわたしは、
疲れた足をひきずって
京都の坂をのぼった…
人の波にまぎれずに
そっとご本尊の背後に立った
正面の
赤い
正しさと期待で
盲目的に祈る人々
でも わたしは
ただ 茫然と
忙しそうな人々を
みつめるだけで
頭の中が、精いっぱいだった…
我さきにという、競争社会に
ついてゆけなかった
そのときだった
ふと
右上から
視線を感じる
顔を上げると
なんと
みかえり阿弥陀様と
目が合った
優しさが
こぼれ落ちるような
静かで
ふかくて
あたたかい
まなざしだった…
「そこに おいでなさい」
「無理せずとも ここに いなさい」
涙が ぶわっとあふれて
わたしは 声も出せずに
ただただむせび泣いた…
努力しないと
見てもらえないと思っていた
必死にならなければ
祈りも届かないと
そう
思い込んでいた…
でも
阿弥陀様は
うしろにいる者を
そっと
みつめていた…
板張りの床には
ひっそりと
灯る小さなあかり
それは
わたしのための場所だった
阿弥陀さまとわたしの
舞台袖
阿弥陀さまの素足が
わたしの右横すぐのところにいらっしゃる…
なんということよ…!
- 正面ではなくても、
-- わたしは
ここにいて
いいのだ ーー
木のぬくもりと
まなざしのぬくもり
そして素足のやさしさ
それが
心をほどいていく…
もう 京都へは
行けないけれど
スマホ画面で
そっと
会いにいく…
「今日も生きています」
「少し泣きました」
そう
報告できる居場所が
今も
ここに あるから…
つらい日には
また
後ろから
ついてゆこう…
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