第3章 #LastDreamers

 国際緊急報道:

 「We Are the Last Dreamers」──世界中で夢去勢者によるデモが勃発


 国連通信社 U.N.N. (United Nations Network)

 発信日時:2216年10月22日 01:34 UTC


 【ジュネーヴ】

 本日未明より、「We Are the Last Dreamers」のスローガンを掲げた大規模な抗議デモが、世界各地で同時多発的に発生した。デモの主体は、夢を去勢された若年層──通称「ラストドリーマー(Last Dreamers)」と呼ばれる新世代市民達だ。


 ■ 抗議の内容:

 •「夢を見る権利を返せ」

 •「去勢されても、心は奪えない」

 •「夢は我々の最終言語である」


 参加者たちは、去勢政策が個人の内面に対する過剰な侵害であり、精神的人権の否定であると主張している。

 

 ■ 世界各地の状況:

 •パリ: ルーヴル美術館前にて推定4万人が集結。白装束の若者たちが静かに目を閉じ、地面に寝そべる模擬夢パフォーマンスを実施。

 •ニューヨーク: タイムズスクエアを中心に「Sleep-In」抗議。警察と小規模衝突、18人が拘束。

 •東京: 新宿駅西口で非許可のデモが勃発、約800人が参加。「我々に、夢を返せ」というシュプレヒコールが響く中、機動隊が出動。現在、250名以上が拘束されている模様。

 •ソウル、ベルリン、ヨハネスブルク、ムンバイでも抗議が確認され、いずれも10代後半から20代前半の去勢世代が中心。

 

 ■ 政府・国連の反応:

 国連夢規制庁(D.N.S.C.)は緊急声明を発表:

 「一部の若年層による暴走的表現行為であり、去勢政策の正当性は揺らいでいない。引き続き、夢なき世界の構築を推進する」


 同庁は、デモを「情報感情過多による集団ヒステリー」と分析しており、**AI調整機関“Wednesday”**による収束処理が進められているとのこと。

 

 ■ 背景:

 “Last Dreamers”という呼称は、皮肉にも「夢を知らぬ世代」が“夢想者”を名乗ったことで生まれた。彼らの叫びは、見ることなき幻を求める、矛盾の象徴となっている。

 

 そして今、SNS上では以下のハッシュタグが爆発的に拡散している:


 #WeAreTheLastDreamers

 #DreamsAreNotCrimes

 #PayerRising

 #LetUsSleep

 

  編集後記:


 夢を否定された人類が、夢想を始めた夜。

 これは単なる抗議運動ではない。

 人間という種の“内部記憶”が叫んでいるのだ。


 夢を奪った世界に対して、

 夢を知らない者たちが、

 夢そのものとして反逆を始めた。


 J-PULSE24・夜の特集ニュース


『拡大する夢去勢デモ──世界はどこへ向かうのか』


 放送日:2216年10月22日

 放送時間:21:00〜21:45

 司会進行:白根 隆(国営放送局アナウンサー)

 解説:安部 有紗(夢規制庁文化顧問/精神倫理学博士)

 

 白根アナ:

 「こんばんは。《J-PULSE24》です。

 本日は現在、世界各国で急拡大している“夢去勢政策”に対する抗議活動について取り上げます。

 スローガンは──『We Are the Last Dreamers』。彼らは何を訴え、私たちはそれをどう受け止めるべきなのでしょうか。」


 【ニュース映像:東京・新宿西口】

 静まり返る夜の街。若者たちが静かに座り込む。口にガーゼを噛み、夢を“語れない”ことの象徴として訴えるパフォーマンス。


 白根アナ:

 「去勢世代と呼ばれる10歳〜16歳の若者たちが、沈黙のデモを展開。“夢が見られない苦しみ”を無言で伝えています。」

 

 【VTR:海外の様子】

 白根アナ:

 「この動きは国内にとどまりません。パリ、ベルリン、ニューヨーク、そしてソウル。全てのデモに共通していたのは──『夢を、知りたい』という声でした。」


【ゲスト解説:安部 有紗】

 白根:

 「安部先生、なぜ今、夢を知らない若者たちが“夢”に執着しているのでしょうか?」


 安部顧問:

「それは“概念としての夢”が、かつての人類の記憶として擦り込まれているからです。

 情報遺伝子レベルで、“夢”が記号化されてしまっている。彼らは夢を見たことがなくても、“夢があった”という社会神話を無意識に追い求めてしまうのです。」


 【現場インタビュー:デモ参加者】

 17歳・高専生:

 「夢を見れないことが、何で“安全”って言えるんですか。

悲しい夢も、怖い夢も、良い夢も──それが人間の全部じゃないんですか?」


 【J-PULSE編集部 総括】

 白根アナ:

 「“夢を取り戻す”という、かつて詩的とされた言葉が、今や社会秩序を脅かすキーワードとなりました。」


 安部顧問:

 「夢はウイルスであり、同時に願いでもある。

それをどこまで管理するか、世界は今、再び揺れ動いているのです。」

 

 白根アナ:

「今夜の特集はここまでです。

あなたは、今夜──夢を、見ますか?」


 そして次の瞬間、SNSでは

 #LastDreamersJP

 #夢を返せ

 #声なき夢の時代

 のハッシュタグが、静かに爆発していくのだった──。

 

 2216年10月24日。

 東京の空は、どこまでも澄んでいた。

 夢を見ない時代の、完璧に制御された天候。人工気象は一滴の雨も落とさない。


 しかし、SNS上の空気は違っていた。

 #LastDreamers

 #夢を返せ

 #わたしは夢を知らない

 #カナエの声を聞け

 ──静かな言葉が、光の速さで広がっていた。


 この国の大半は、まだ黙っていた。

 けれど、ほんの一部の若者たちが、指を震わせながらツイートを押した。

 「これが、“怒り”というものかもしれない」と。

 それすら、彼らは本やデータで知っただけだった。


 最初のデモは、渋谷のスクランブル交差点。

 「夢を知らない」若者たちが、

 夢を“見たふり”をして叫び始めた。

 

 2216年10月26日

 今日は土曜日、と言う事で高校も休みである。土曜日のハルは18時から天屋碗屋で働く。それまでの間、ハルは2日前のデモ、通称:渋谷蜂起の記事を調べたり、ヨースタイン・ゴルデルの「ソフィーの世界」を捲ったり、洗濯・掃除をしたり………。ちょっと昼寝も。

 

 16時過ぎになり、ハルはシャワーを浴びて天屋碗屋に行く準備を整える。開店1時間前から店内外の清掃を行ない、料理の下拵えを手伝う。シュウもそうだが、ここのスタッフはみんな料理が上手い。いつも(手伝いはそっちのけで)味付けや火加減等を学べているのだ。


 天屋碗屋で働く前は、コンビニ飯だったからなぁ……


 ハルはそんな事を思い出す。


 環は時計を見る。


「よっしゃあ!さて今日もやりますかぁ!!」


 店の顔に、京が仕上げた暖簾・藍髑髏酒肴究(しゅこうきゅう)を掛ける。

 深い藍紺の帆布風素材、かすれた白の筆文字入り。使い込まれた風合いで、店先の夜風に揺れる様子をイメージした。店名の下段には、盃徳利で1杯やる髑髏。左右には、酒・肴の文字。

 

 そして、天屋碗屋の土曜が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る