焼け跡に立つ影

 後日、深夜の配車中に、無線が乱れた。


 『……○○霊園、旧火葬場の裏手……乗車希望……』


 そんな場所に、タクシーを呼ぶ人間はいない。

 だが、カーナビが勝手にルートを描き始めた。


 無意識にハンドルを切り、霊園へ向かっていた。

 墓石の影が、夜の闇に沈んでいる。



 旧火葬場跡地――そこには、焦げた匂いと、半ば崩れたレンガ壁が残っていた。


 そして、黒い影が一体、立っていた。


 白い顔、黒い髪。

 まっすぐに俺を見ている。


 目が合った、と思った瞬間、

 彼女の姿はふっと霧のように消えた。



 ただ、後部座席に気配だけが戻ってきた。


 今も、俺のすぐ後ろに座っている。


 まぶたを閉じれば、そこにいる。

 目を開けても、いないだけで――どこにも“消えていない”。

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