忘れられた封筒

 七月の終わり、湿気が骨の中まで入り込むような朝。

 タクシー会社の控室に入ると、見慣れた同僚がこちらを見て言った。


 「これ、お前んとこにあった封筒じゃね?」


 差し出されたのは、黒ずんだ茶封筒。

 宛名も、差出人も書かれていない。


 ただ、開け口にだけ、赤ペンで何かが殴り書きされていた。


 > 「燃やせ。二度見るな」


 中には、写真が一枚入っていた。

 白黒の集合写真――昭和中期とおぼしき着物姿の女性たち。

 中央の列の後ろ、ピントの外れた暗がりに、ひとりだけ笑っていない女が写っていた。


 長い髪、濡れたような質感、異様に白い顔。

 彼女だった。

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