第108話 リベンジ
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『狭山! ヒヤリとする瞬間はありましたが、なんとかツーアウトまできました! しかしバッターはこの試合2安打の錦山! 先日のユミルズ戦では、オルカの甲子園優勝を決定付けるスリーランホームランを放っています!!』
『代打で登場した時もチャンスに滅法強い選手でしたからねぇ。当然、ペンギンズファンはここもサヨナラを決める一打を期待しているでしょう』
『規格外ルーキーの狭山が、今日もしっかり抑えて無失点試合記録を更に伸ばすか!? それとも錦山が意地を見せるか!? 注目していきましょう!!!』
(狭山か。前回はストレートだけにヤマを張ってたから上手い事打てたが…。今回はどうするか…。こいつ、試合を重ねる度に成長してる気がするんだよな。ほとんど野球をやった事がなかったって話だし、試合でやる事全てが良い経験にでもなってるのかねぇ)
内心で小難しい事を考えながら、右バッターボックスに入る錦山。前回の対戦では、ストレートだけにヤマを張って、他のボールが来たらごめんなさいと素直に割り切って打席に入る事が出来た。
しかし、自分が打ち取られてしまえば試合が終わるという場面。消化試合でもう順位に影響しないとはいえ、あの時のような極端な割り切り方は出来ない。
怪我で1年目のシーズンと今シーズンの前半を棒に振ってしまった錦山は、とにかく結果に飢えている。
来シーズンは開幕戦から使ってもらうという事を考えると、いくら打っても足りないくらいなのである。
(まあ、それでもやっぱりストレートか。追い込まれるまではとりあえずストレート。追い込まれたら、変化球はカットしてストレートを仕留める。これでいこう)
前回の対戦でストレートの軌道はしっかりと覚えている。幸い、このイニングの審判はコースが馬鹿みたいにおかしいので、甘い球は狙っていけるはずだと、錦山は考えた。
そう思っていたのだが。
パワーカーブパワーカーブパワーカーブ。
パワーカーブパワーカーブパワーカーブ。
(ふ、ふざけるなよ。ストレートを1球も投げてこないじゃないか!)
6球続けてパワーカーブ。
追い込まれてからはなんとかファールで逃げてるものの、1球もストレートを投げてこない。
これまで一馬が一人の打者相手にストレートを投げない事はなかった。だから、錦山もそのストレートを狙っていたのだが、こちらの狙いを見透かしたようにパワーカーブだけの配球。
因みにこのサインに一度も首を振る事なく投げてる一馬だが、こんな大胆なサインを出してくる別所に、内心呆れていた……訳でもなく楽しんでいた。
速いストレートを投げるのも楽しいが、ギュルンギュルン曲げるカーブを投げるのも楽しいのである。
次が7球目。
カウントはツーボールツーストライク。
いい加減ストレートを投げて来いと思ってる錦山だが、当然それは表情には出さない。
(ストレートだ)
ここで一馬が初めて、一瞬顔を顰めるようにして首を振った。それを見た錦山はストレートだと確信する。
見るからにストレートを投げるのが好きそうな一馬。パワーカーブばかりの配球にいい加減苛立ったのだろうと、錦山は考えたのだ。
物凄い球を投げるとはいえ、一馬はまだ19歳で高卒一年目。最後は自分が一番自信を持っているストレートで勝負してくるはずだと。
そこから更に二度首を振った一馬は、ようやく納得したサインが出たのか、少し笑みを溢して頷く。その時、キャッチャーの別所からため息を吐いたような音が聞こえて、錦山は益々ストレートへの確信を強める。
別所も若いピッチャーの制御に苦労してるのだろうと。
(こいこいこい、一撃で仕留めてやる)
グリップをギュッと握り締めた錦山は、一馬のストレートを今か今かと待ち構える。
しかし、投げられたのはサークルチェンジ。
(ボールが来ない!!!)
途中まではストレートだと思ってスイングを開始してしまった体勢から、なんとか粘り腰で耐えてバットに当てようとするが、ボールは無情にも右打者の錦山から逃げていく。
最後は片膝を付くような形で空振りしてしまい、ワンバウンドした球を別所がしっかり捕球して錦山にタッチ。三振となってゲームセットである。
(サークルチェンジ…。結局1球もストレートを投げねぇのかよ…)
片膝を付いた状態から動けない錦山はその場で少し呆然とする。一馬にサークルチェンジという変化球があるのは当然情報として知っていた。
ただ、ひたすらパワーカーブで攻められ、ストレート待ちだった錦山を焦らしに焦らし、最後は一馬に首を振らせてのサークルチェンジだ。
(中々強かじゃねぇかよ…。ストレートで押したい場面だろうに)
ようやく再起動した錦山はがっくりと肩を落としてベンチに戻る。
ずっと不利な判定を下されて、フラストレーションが溜まってただろう。だが、ストレートでゴリ押しせずに、気持ちを押し殺してひたすら変化球勝負。
厄介なピッチャーが出てきたなと、錦山はため息を吐きながら一馬の方をチラッと見る。
「ふっ。気持ちを押し殺してはいないか」
ナインとハイタッチしながら、ずっと審判の方を見てドヤ顔している一馬を見て、錦山は軽く笑いながら、次は絶対打つぞと気持ちを切り替えるのであった。
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