第83話 移動
東京ユミルズとの首位攻防三連戦が終わった。結果は二勝一敗で、残念ながら首位奪取とはならなかった。
二戦目は前日のサヨナラ勝ちのテンションで勢いで勝ったんだけど、三戦目は一戦目と同じような白熱した投手戦。
だが、1-1で迎えた8回に瓦さんが桐生さんに勝ち越しホームランを打たれてしまった。左のサイドスローから投げられた胸元を抉るスライダーをドカンである。
完璧なコース、スピード、変化量だと思ったんだけど、当たり前のようにスタンドまで運ぶ桐生さんは、本当に恐ろしい。
瓦さんもあれを打たれるのかって呆れてたしね。俺がツーベースで抑えれたのは、本当に運が良かったのかもしれない。
因みに俺は第二戦に出番があって、1三振を奪っての三者凡退。桐生さんとの対戦はなかった。点差があった場面だから、気楽に投げれました。
「グリーン車に乗れるとは…。一軍の待遇は素晴らしいな」
「一馬は普通の席乗ったりしたら窮屈そうやな」
「そうなんだよ!」
そして翌日。
今日は移動してそのまま試合である。
移動は二軍の時も体験してるから、こういう慌ただしい感じもそこまで苦ではないんだが。
一軍はなんとグリーン車!
グリーン車ですよ!
一馬君、人生初体験です!!
俺は身長がデッカいから、普通の一般席はかなり窮屈だったんだ。中には自分でグリーン車をとってる先輩なんかも居たんだけどね。
俺はそんなVIPな事を出来るほどの給料はない。いや、普通の高卒一年目の社会人に比べれば貰ってる方ではあるんだろうけども。
まだそこまで贅沢出来る身分ではない。
ただ、一軍選手は全員球団がグリーン車をとってくれる。
素晴らしい。
素晴らし過ぎるぞ、一軍。
また二軍に落ちれない理由が出来てしまったな。
しかもホテルも一軍と二軍とでは別物。
一軍は高級シティーホテルみたいなところに泊まるらしい。二軍はビジネスホテルだった。
これはかなり嬉しい。
ビジネスホテルは偶にベッドが小さい事があって、俺の身長では足がはみ出る事があった。
俺は入寮の時にベッドの改造をお願いするぐらい、足がはみ出るのは無理なのである。そういう時は、仕方なしに足を曲げて寝るんだが、普通にストレスを感じてた。
まあ、あんまり二軍戦の時は日帰りが多くて泊まりは少なかったけども。高級シティーホテルさんでは、足がはみ出るって事はないだろう。
うむ。
またまた二軍に落ちれない理由が出来ましたと。
「じゃあ、俺はちょっと集中するから」
「なんや、冷たいやっちゃな。一馬と移動中に遊ぼおもて、トランプ持ってきてるんやで?」
「お前は修学旅行生か」
俺がタブレットを取り出して、イヤホンまでセットすると、大河はかなり不満そうである。本当に手にはトランプ持ってらっしゃる。二人でトランプって、やれる事がかなり限られてるだろうに。
ただ申し訳ないが、トランプにはお付き合い出来ない。
ちょうどもうすぐ、由美の世界選手権の準決勝がネットで中継されるんだ。今までタイミングが合わなくて中々見れなかったけど、見れるならリアルタイムで見たい。
「え……一馬、彼女おったんか…?」
「………言ってなかったっけ?」
俺が彼女が試合に出るんだと、懇切丁寧に説明すると、大河は手に持ってたトランプをパラパラ落として驚愕の表情をしている。
そういえば言ってなかった気がするな。
キャンプの時も半日デートしてたし、てっきり知ってると思ってた。俺と由美はデカいし、そんなのが並んで歩いたりしてたら目立って噂になったりしてるもんかと。
あ、大河とはキャンプ場所違ったや。
てへぺろ。
「裏切りや…。これは重大な裏切りやで!!」
「うるさいな…。静かにしなさい」
大河が俺にビシッと指を差して叫ぶ。
周りは選手ばかりとはいえ、一両を丸々貸し切りにしてる訳ではない。見た感じ、今のところ周りに一般の方々はいないが、マナーとして静かにしないといけないだろう。
「大河はモテモテだろ? 甲子園球児で優勝までしてドラフト一位でプロに入団してるんだから」
「うちの学校に恋愛なんてしてる暇がある訳ないやろ……。それに肩書きに寄ってくる女はちょっとなぁ……」
「そんなもんなのか」
「それにお付き合いするなら、ちゃんと将来の事も考えてやな。こう、なんか色々あるやん? 分かるやろ?」
大河は普通にイケメンだ。
ちょっと目付きが鋭くて、危ない雰囲気は醸し出してるけども。そういうのが好きって女の人はごまんと居るだろう。
ただ、大河はこう言ってはなんだが、意外と真面目だった。もっと女遊びとかやってるようなイメージがあったんだけど。
「まあ、俺の話はええやろ。それより一馬の事や。どの子や? どの子が彼女なんや?」
「一番大きい人。同じ島出身の幼馴染なんだ」
「は? え、でっか…。いや、バレー選手なんやからデカいんやろうけど。この向田さんか? この人だけずば抜けてるやん」
「確か194cmって言ってたかな」
「……一馬の地元の島、なんかおかしないか? プロ野球選手とU世代とはいえ、バレーの日本代表を輩出するって…。しかも、同学年で彼氏彼女って…。なんか出来過ぎやろ」
大河が映像に映ってる由美の姿を見て、目を見開いて驚く。今は試合前にこれまでの試合リプレイなんかが流れてるんだ。
日本代表の中ではずば抜けて大きいからなぁ。
「そうは言ってもな…。由美は元から色んな所に目を付けられてたけど、俺がスカウトされたのは偶々だぞ? 本当に運が良かったんだ。……いや、そう考えるとやっぱり出来過ぎか」
大河が俺の島の特異性に何かを疑ってるが、本当に観光ぐらいしかする事がない田舎の島である。
何も特別な事なんてありません。
本当に偶々俺達二人が大きく生まれた。
それだけなんです。
俺はステータスがあるけども。
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