第45話 相談


 「全力で投げた球を当たり前のように柵越えされる……。ストレートも変化球も簡単に打たれる。正直もう少しやれる自信はあったんだ……」


 瓦さんと入れ替えで二軍に来た馬場。

 キャンプ初日から一軍帯同で、必死にアピールをしてたみたいなんだけど、紅白戦でプロの洗礼ってのを浴びたらしい。


 馬場のストレートは150kmを超えてるし、変化球の種類も豊富だ。高校生ピッチャーでは5本の指に入るって言われてたぐらいなんだぜ。


 それが簡単に攻略されて意気消沈。

 今も部屋でどよんとしてる。


 そういえば、伸二は去年の夏に甲子園の試合を見てる時、馬場のフォームはタイミングがとりやすいと思うとか言ってたよな。


 その辺をバッター陣に見抜かれてるんじゃないのって思うが、テレビで見た伸二がそう思うなら、プロのコーチから指導が入りそうなもんだ。


 「馬場はさ、ピッチングコーチから何か言われたりしてないの?」


 「いや……。特には。ただ、ラプソードの記録と、自分のピッチング映像を見せられて、どう思う? とは聞かれたな」


 「どう思ったんだ?」


 「いつも通りだなとは思ったぞ。コーチにもそう言ったし。乱れてたりはしてなかったはずだ」


 「ふぅむ…」


 どういう事だ?

 フォームに問題がありそうなら、コーチから指導が入るはず。それがないって事は、フォームには問題がないのか?


 映像やデータを見せて来たって事は、本人に気付いて欲しいと思ってるパターンもあるのかね?


 そうなると、俺が思ってる事を言ってもいいものか……。


 ……まあ、いっか。

 馬場が俺の話を聞く聞かないにしても、同期が困ってるのなら、可能な限り助ける。俺も合同自主トレ中にお世話になったしね。


 とりあえず馬場のフォームはタイミングが取りやすいんじゃないか問題を話してみるとしよう。





 『馬場さんのフォームは綺麗過ぎるんだよね』


 「と、言うと?」


 馬場とフォーム問題について話した。

 俺がキャンプのブルペンでとりあえず結果を出したお陰もあって、一応は話を聞いてくれた。


 話が終わった後、馬場は映像を見返してみると言って、部屋に帰って行った。


 俺はその後に伸二と電話。

 いよいよ明後日具志川にやって来るんだけど、なんでタイミングが取りやすいと思ったのか、早く聞きたくて。


 『野球の教科書があれば、それに載ってそうなフォームって言えばいいのかな。綺麗過ぎるから、みんな慣れててタイミングが取りやすいと思うんだ。それで飛び抜けた武器があれば良かったんだけど、全部が平均的だから……』


 「なるほどなぁ」


 『これが高校生相手なら、150kmオーバーのストレートに種類の豊富な変化球で、そこそこ無双出来たかもしれない。でも、プロはそんな相手と戦うのが当たり前だからね』


 という事らしい。

 馬場はフォームが綺麗過ぎて、それがバッターにとって都合が良い事になってるんだとか。


 プロの投手のフォームは千差万別。

 少しでもバッターに打たれまいと、あの手この手の工夫はしてるからね。それは、この短いキャンプでも良く分かった。


 俺も色んな人から話をどういう意図で、そう投げてるのかとか聞いて勉強させてもらってるんだ。


 基本からどれだけ逸脱して、自分の最高のボールを投げられるか。それが大事なのかもしれない。


 これで馬場のフォームから160kmだったり、キレ味の鋭い変化球でもあれば、また話は別だったが。


 『でもねぇ。馬場さんはまだ高卒一年目で完全に身体が出来てないでしょ? ここから身体が出来て全体のステータスが上がれば、また話は違うんじゃないかな? 具体的には球速が2〜3kmアップ、変化球は何か一つ武器になるものを磨いて、コントロールも四隅に投げ分ける事が出来たら……』


 「伸二伸二、俺で麻痺してるのかもしれないが、球速はそんな簡単にポンポン上げられないぞ」


 俺はちゃんとトレーニングしてるのもあるけど、最終的にはステータスがある。ポイントを使えば、その球速を投げられる身体になるけど、普通はそうじゃない。


 球速1km上げるのに、一年掛かるのもザラにあるし、これ以上上がらない場合もある。


 『あ、そっか。……まあ、所詮これは素人の俺の考えだからさ。的外れな事を言ってるかもしれないし、ピッチングコーチが今は何も言ってないなら、下手に弄ったりしない方が良いんじゃない? 何か考えがあるかもしれないし、フォームを弄ったりすると、人によっては持ち味が全部消えちゃう事もあるからね』


 「確かに。馬場に言わない方が良かったかな……」


 失敗したかも?

 これで馬場が明日から新しいフォームに挑戦するぜ! とか言い出したらどうしよう。


 それで調子を完全に崩したら俺のせいじゃん。


 『兄貴よりずっと長く野球をやってる人なんだから大丈夫でしょ。自分のフォームを弄る大変さとかは、本人が一番よく分かってるはずだしさ』


 「一理ある」


 『これが兄貴相手なら、俺はフォームを弄るように言うけどね。馬場さんも少し変えたら化けそうな雰囲気はあるんだけど……。まあ、俺の勘で選手生命をどうこうする事は言えないよ。俺はネットの知識を漁ってる中学生でしかないんだから。あ、もうすぐで高校生か』


 まあなぁ。

 俺が伸二が言ってた事を、馬場に伝えても失敗したら責任なんて取れないし……。あんまり余計な事は言わない方が良いんだろう。


 まだ初年度のキャンプで躓いただけだ。

 ここから何かのキッカケで大化けするかもしれない。これがクビ一歩手前で、藁にも縋る思いとかなら話は別だけどね。


 一応明日から馬場の様子はちょこっと見ておこう。俺もあんまり他人を気にしてる余裕はないんだけどさ。


 言っちゃったからには気にしておかないと。


 『それより、兄貴は、俺達がキャンプを観に行く日に紅白戦で投げるんでしょ? 大丈夫なの?』


 「まだまだ付け焼き刃の域を出ません…」


 投げる分には問題ないと思う。

 問題はそれ以外だ。


 瓦さんや色んな人の協力のお陰で付け焼き刃ながら、最低限の動きは出来るようになってると思う。ただ、まだ頭で色々考えちゃってるし、咄嗟の判断ってのが出来ない。


 本当にこればっかりは慣れだ。

 まだまだ練習を重ねる必要はある。


 母さんや伸二、由美が観に来てくれる前で無様を晒したくはないけど、一体どうなる事やら。


 試合に出れる嬉しさと不安が半々って感じだな。



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 ちょっぴり久々の伸二君。


 調子に乗って2話更新続けてるけど、そろそろキツいよね。作者のやる気の為にも、まだの人は星の評価や作品のフォローをよろしくお願いします。


 本当に星やフォローしてくれる人が増えるとやる気が出るんです。

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