第6話 投球フォーム


 「もう少し様子見は必要だけど…。ようやく本格化出来そうだね」


 「まさか、こんなに長い間身長の伸びが止まらないとは思わなかったぜ」


 「本当にねぇ」


 狭山一馬16歳。

 ついこの間、高校二年生になりました。


 え? 一気に時間が飛びすぎ?

 そう言われましてもね……。

 身長が急激に伸び始めてから三年間、伸二監修の同じような練習しかしてないんだ。


 何故なら、今の今まで身長の伸びが止まらなかったから。


 中学一年の終わりの頃から伸び始めた俺の身長。最初は成長期だし、こういう事もあるかーって思ってたんだけどね。


 そこからびっくりするぐらい伸びが止まらなかったのよ。高校に入学前に190cm超えて、流石にちょっと怖くなったよね。


 いや、居るところには居るらしいよ? 同年齢で俺よりデカい人。でも、ここまでニョキニョキと伸びるのは本当に怖かった。


 結局、沖縄本島の大きな病院に行って、身体をきちんと調べてもらった。俺が住んでる島にもお医者さんはいるけど、町のお医者さんって感じで小さい診療所だから、設備も整ってるとは言えないんだよね。


 最近の医療では最終的に身長がどこまで伸びるかってのが、大体分かるらしい。身体に異常がないかついでにそれも調べてもらった。じゃないと、いつまで経ってもステータスで遊べないからね。


 で、最終的に俺の身長は200cmを超えるか超えないかぐらいまで伸びるらしい事が分かった。日本人としてはでっかい方なんだろう。


 既に俺は島の中で一番デカい人間になってるし。両親は二人とも平均よりちょっと高いぐらいの身長だし、中学生の伸二も平均的な推移をしている。


 ステータスに身長を弄る項目でもあるのかと、伸二に聞かれたのは良い思い出だ。


 そして今。

 身長が199cmになって、流石にここから伸びても数cmって段階にまでなってきた。


 ようやく。

 本当にようやく170km投げてやんよ大作戦が本格始動する事になった訳だ。


 「この数年間、本当に地味な練習ばっかりだったなぁ…」


 「なんでも地味な基礎ドリルが一番大切なんだよ。それにこれからやる事も地味な練習だよ?」


 「それな」


 伸二の賢さは年々増してきている。

 俺はポイントの為に勉強も真剣に取り組んでる方だけど、それでも成績は上の下レベルだ。


 だが、伸二は教科書を一通り読んだら、大体の事は理解出来るという化け物っぷり。中学校の定期テストでも、偶にケアレスミスで点数を落とすが、ほぼ満点なのだ。


 最近では家の旅館の経営にまで興味を持ってるのか、両親と色々話して経営改善に着手してるくらいだ。


 ………将来、俺が旅館を継ぐより、伸二が継いだ方が良いかもしれん。俺は他の仕事で伸二のサポートに回ろうかなと、最近は考えてたりする。


 そんな伸二だが、勉強に使う時間を俺のトレーニングメニューを考える時間に当ててくれている。


 ポイント効率と、球速アップの為に必要なトレーニング。それを良い感じに両立するメニューを考えてくれてるんだ。


 この数年間、本当に地味な練習ばっかりだった。それでも頑張ってこれたのは、今日この日の為だ。


 「じゃあ、投球フォームだけど…」


 「フォームを固めるって事は、やっぱりまた反復練習か?」


 「うん。実際にボールも投げてもらうつもりだけど、シャドーピッチングの方を重点的にやるかな」


 「ああ、漫画であったやつか」


 身長が伸び続けて、投球フォームの練習は出来なかったけど、こういうフォームにしようって相談は今までしてきた。


 成長痛で激しい運動が出来ない時は、動画を見て勉強したり、漫画を見て勉強した。うちの旅館にはお客さんが暇潰しに読む為の漫画がたくさんあるのだ。その中に野球漫画も結構あった。


 結果、デカい身体を活かしたオーバースローから地面に叩き付けるような投球フォームが良いんじゃないかってなったんだ。アーム式って言うらしい。


 せっかくデカくなったなら、その身体を活かしたフォームにしないと勿体無いよねって。


 肘に負担が掛かりにくくて、肩が怪我しやすいらしいけど、俺にはスキルがあるし、この数年間怪我しない為の身体作りをしてきたし、当然それはこれからも続けるつもりだ。


 最初の俺はアンダースローが良いって、駄々を捏ねてたんだけどね……。ゲームならアンダースローだろうが170km投げれるから、そっちの方がカッコいいと思って。


 伸二にすぐに却下された。

 ステータスはあくまで、鍛えればそのスペックの力を発揮出来ますよっていう目安みたいなものだ。


 間違った鍛え方をして、スペック通りの力を発揮出来る訳がないでしょと、正論パンチを頂戴してすぐに諦めた。


 「兄貴は腕も長いからね。これはバッターは打ち辛いと思うよ。実際は分からないけどね」


 「ここまでやる必要あるか? 俺はとにかく速い球を投げれたらそれで良いんだけど」


 「やるなら徹底的にやらないと面白くないでしょ? せっかく数年間地味な練習をしてきたのに、ここで妥協してどうすんのさ」


 「……それもそうか」


 まずはグローブを装着して、伸二に指導されながら、フォームを身体に染み込ませる。


 写真や動画を撮ってもらって、逐一チェックが入りながらの、これまた地味な練習ではある。


 俺はとにかく速い球を投げれたらそれで良いって思ってるが、伸二はバッターから球の出所が見え辛い投球フォームを要求してくる。


 俺のデカい身体でギリギリまで長い腕を隠して、投げる瞬間に急に腕が飛び出してきて、地面に叩き付けるように投げる。球持ちが良いって言うのかな? ゲームでもそういうスキルがあるし、俺のステータスにもある。相変わらずロックされてるけど。


 まあギリギリまでタイミングが測れずに、170kmなんて投げられたら、確かにバッターは打ち辛いだろうよ。


 実際にバッターと対戦する機会なんてないだろうけどな。


 高校でも部員不足で、入部を諦めたし。

 この島は同年代が少なすぎるぜ。

 

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