第1話 不思議


 「一馬ー! 掃除終わったー? 終わったんなら、早いところご飯食べちゃってー! 今日も忙しくなるわよー!」


 「はいはーい!!」


 母さんからの声に、俺は元気よく返事して部屋の掃除を終わらせる。ありがたい事に、この旅行シーズンは毎年予約でいっぱいなのだ。


 部屋をぴっかぴかに掃除して、お客さんには気持ち良く泊まってもらって、来年からのリピーターになってもらわないといけない。


 忙しいのは疲れるけど、寂れてるより繁盛してる方が嬉しいので、毎回掃除やサービスには気合いを入れてやらせてもらってる。


 お小遣いももらえるし。

 それになにより…。


 『技術+3』

 『精神+1』


 「やっぱり、どれだけ頑張ってもこれぐらいが限界か……。ほんと、なんなんだろ、これ」


 俺は目の前に浮かんでる数字を見ながら、この不可思議な現象の事を少し思い出すのであった。





 俺は沖縄本島から少し離れた観光で有名な島に生まれた。両親はこの島で観光旅館を経営してて、観光シーズンになるといつも忙しくなる。


 旅館と言っても従業員は少なく、民宿に近い感じではある。家族経営するには少しハコが大きいので、何人かの従業員を雇っての旅館って形になってる。


 まあ、忙しくても愛情を持って育てられてると思うし、俺も特に不自由なく過ごしてきた。


 だが、俺は物心が付いた時から、目の前に意味不明なものが見えるようになっていた。


 これが一番初期に見えてたものである。



 ☆★☆★☆★


 【ステータス】

 弾道  1

 ミート G(0)

 パワー G(0)

 走力  G(0)

 肩力  G(0)

 守備力 G(0)

 捕球  G(0)


 球速 30km

 コントロール G(0)

 スタミナ   G(0)


 【経験ポイント】

 筋力  0

 敏捷  0

 技術  0

 変化球 0

 精神  0


 ☆★☆★☆★



 イメージとしてはこんな感じのやつだ。

 下の方にある何か行動したら溜まっていくポイントは、分かりやすく0にしてあるが、俺がこのステータスみたいなのを意識した時から、ある程度ポイントが貯まっていた。


 これとは別にスキル欄みたいなのもある。

 これは本当に大量にあるので割愛。


 でも例えばこれ。

 『レーザービーム』


 こんなのがあったりする。

 残念ながらこれは色々なポイントが足りてても取得できない。取得しようとしても、条件を満たしてませんだの言われる。


 スキルの大半はそう言われて取得出来ない。でも条件さえ整えば、俺はいつかレーザービームが撃てる男になれるんじゃないかと密かに期待してる。


 ってのは冗談で、なんか野球に関係してるんだろうなーってのは、ふわっと分かる。スキルの欄を見ても、たまにテレビで観る野球に関連する事が多いように思うからだ。


 まあ、こんなのが物心を付いた時から見えてる訳だ。気付いたのは大体三歳ぐらいの時かな?


 当然意味が分からなかった。

 いや、今もふわっとしか意味が分かってないけど、あの時はもっと訳が分からなかった。


 だから、こんなのが見えるんですけどって、子供ながらの拙い説明で両親に言ったんだ。目の前にずっと意味の分からないものが見えると。


 両親は心配してすぐに病院に連れて行ってくれたが、当然とも言うべきか、異常なしと言われる。


 両親はそれでも心配して、島の病院じゃなくて、本島のしっかりした病院に連れて行こうとしてくれた。


 だが、あの時の俺は普段ニコニコしてる両親が、ずっと心配してるのを見て逆に申し訳なくなったのか、やっぱり大丈夫だと伝えたらしい。


 正直、あんまり覚えてない。

 邪魔だなと思えば、ステータスみたいなのは消えてくれてたし。出てこいと思えば出てくるんだけど。


 まあ、そんなこんなで、俺は物心が付いた時から、この不思議なステータスと共に過ごしてきた訳だ。


 それから5年程経って、今の俺は小学生。

 両親が観光旅館を経営してて、小さい時からお客さんと接してお喋りする機会があったり、ちょこまかと簡単な手伝いをしてたお陰か、俺は子供ながらに色んな経験をして、俺はほんの少しだけ利発な子供らしい。


 子供嫌いなお客さんだっているから、あくまで程々にだけど、この旅館の看板ボーイとして愛嬌を振り撒いて、結構リピーターが居てくれたりする。この旅館の一番リピーターが多い理由は料理と、すぐ近くにある泳げる海らしいけどね。


 色んな事を経験するお陰で、ステータスの色々なポイントが貯まっていく。俺にはその意味が未だにちゃんと分かってないが、ポイントが貯まるのは普通に面白い。


 適当に過ごせば全然ポイントは貯まらないが、真剣に物事に取り組めば、その分ポイントは貯まっていく。


 だから、とりあえず俺はなんでも真剣にやってみる。それで、ポイントが貯まっていくのを見て、ニマニマするんだ。


 どうやら俺は、こういうのが好きらしい。


 子供ながらに親のお手伝いしたり、なんでも真面目にするのは、周りの人達からも好印象なのか、島の人達からの俺の印象はすこぶる良い。


 正直、俺はポイントの為に頑張ってるだけだが、褒められたりするのは素直に嬉しい。


 嬉しいからまた真剣に頑張る。

 ポイントが貯まる、褒められる。

 素晴らしい好循環だなと、俺はまだ小学生ながらに人生を謳歌していた。


 「一馬ー! 早くご飯を食べないと時間が無くなるわよー! 午後からは伸二の面倒を見てくれるんでしょー!」


 「あっ、はーい!!」 


 伸二は俺の弟で三つ違いの五歳だ。

 小さい時から両親が忙しい時は、俺があれこれと面倒を見ていた。


 普通に弟として可愛がってたからってのも勿論あるが、伸二の面倒を見ると何故か精神のポイントが上がるんだ。


 俺はそれに気付いてから、積極的に面倒を見るようになった。俺が伸二に付き合えば、両親は仕事に集中出来るしね。


 「よーし! 精神ポイントを貯めに行くぞー!!」

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