第30話 火蓋④
監視カメラの死角を縫って、黒島は管理室を目指していた。制限時間は15分。武器は、38口径の拳銃一丁とサブマシンガン、アーミーナイフ。弾の節約のためにも無駄な交戦はできるだけ避けたい。
管理室のある中央エリアに足を踏み入れた瞬間、警報が鳴り響いた。
――赤外線センサー!
廊下の先から、戦闘服の男が飛びかかってきた。こいつも獣人化するのだろうか。心臓の高さでサブマシンガンを掃射してみる。巻き起こる咆哮。黒島が、先手必勝とばかりに獣人の間合いの中に飛び込んだ。すかさず下から顎に銃口をつけ、ぶっ放す。
「ぐあああああああ!!!」
人間の身体をした黒豹が、後ろへ転回して黒島から距離を取った。ゼロ距離からの射撃で下顎は吹き飛ばされ、ぼとぼとと血を流している。こうなれば、牙は封じたも同然だ。黒豹男は、めちゃくちゃに喚きながら黒島に突っ込んできた。鋭い爪を避け、丸空きの口中にサブマシンガンを撃ちこむ。どうと倒れ込む巨躯を蹴って、黒島が宙に舞う。頭上から次の豹男の目玉に弾を撃ちこんだ。着地し、痙攣する獣人の戦闘服から手榴弾と銃を奪う。50口径のデザートイーグル、大型獣に十分対応できる大きさだ。
黒島が管理室前の廊下の角で立ち止まり、身を隠して様子を窺った。すでに管理室前に2頭の獣人が配置されている。後ろからもバタバタと複数の足音が聞こえてきた。獣人かはわからないが、かなりの重量。おそらくは5体ほど。黒島が、左手でポケットの手榴弾を掴みだし、口でピンを引き抜く。追跡者が銃を構えながら角を曲がってくる瞬間を狙って、手榴弾を投げつけた。轟音と爆風。バラバラにちぎれた獣人の手首が飛んできたのを銃床で殴って避ける。まさか手首だけで攻撃してくるのでは、と警戒したが、この獣人にそのような能力はないようだった。
爆発音で襲撃を察知したのだろう。管理室前の獣人が廊下を駆けてくる音がした。黒島が振り向きざまにデザートイーグルを撃つ。サブマシンガンを抱えた虎男が2頭、眉間を撃ち抜かれて倒れ込んだ。
――これで管理室は丸空きか…?
ドア側の壁に背をつけ、慎重に管理室に近づく。開いたドアの中から明かりが漏れ、向かいの壁にぴょっこりと2つの耳がついた頭の影が映った。すかさず、黒島が部屋側に向けて50口径弾を撃ちこむ。獣めいた悲鳴が上がった。腹を撃ち抜かれた豹頭の男が、サブマシンガンを乱射しながら倒れ込む。流れ弾に当たったと思しき悲鳴が重なった。部屋に飛び入った黒島が、豹男の頭にもう1弾ぶち込む。脳髄を散らして、男は動かなくなった。
「手を挙げろ!!」
パソコンの前に座った黒服の男が肩から血を流して、片手を上げる。さっきの流れ弾にやられたか。油断なく、黒島が色違いの瞳を動かして室内の人員を確認した。黒服の男が3人。客室前の見張りと同じ格好だ。2人はすでに負傷している。
「この部屋は俺が制圧する。すべての武器を捨てろ」
右手にデザートイーグル、左手にサブマシンガンを構えて、黒島が命ずる。男たちがガシャガシャと銃2丁とナイフを放り出した。
「自動迎撃システムを扱えるオペレーターは誰だ。お前か?」
パソコン前の男に問いかけると、がくがくと頷いた。目の前で最強のはずの獣人兵士がやられたとあっては、恐ろしくてとても逆らえない。
黒島が残り2人にサブマシンガンを突き付けたまま、オペレーターの男の頭に銃口をつける。
「システムを止めろ」
氷のような冷たい威圧感に震えながら、男がキーボードをたたき、迎撃システムをシャットダウンさせる。
「――春陽。靴を投げろ」
T部隊のインカムに、黒島の声が入る。
「作戦開始!!」
春陽の朗々たる号令が響いた。ボートが唸りを上げて波を切る。
〈つづく〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます