朝起きたら玄関にスズメがいたって話し~こんな経験、二度としない~

東雲レイ

第1話

僕の姉には、8つ年上の旦那さんがいる。

僕にとっては義兄さん。


いま、姉夫婦は別居している。

離婚しないらしいけど…

別居の理由は、まだ聞かされていない。


今回は、まだ別居する前

義兄さんと一緒に暮らしていた頃の話だ。


僕の職場と姉の家は近くて

たまに仕事帰りに泊まらせてもらうことがあった。

もちろん、姉ちゃんから「泊まりに来る?」とLINEが来たときだけ。


その日も、姉ちゃんからLINEが届いたから

お言葉に甘えることにした。


甥っ子の梗太(こうた)と捺世(なち)と

一緒にゲームをしたり、絵本を読んだり。

たくさん遊んで、2人が眠ったあとに

義兄さんが帰宅した。


「お邪魔してます」と挨拶すると

「おう♪」と、義兄さん。


義兄さんは、気さくで優しい人だ。

誰にでも分け隔てなく、自然に接することができる。

僕には出来ないことだから、素直に尊敬してる。


翌朝、僕は早朝出勤だったから挨拶だけして

義兄さんより先に眠らせてもらった。


そして、朝5時。

天気は良好。

気持ちのいい朝。

スズメも元気に鳴いている。


歯を磨いていても

チュンチュン。


着替えていても

チュンチュンチュン。


朝ごはんの準備をしていても

チュンチュンチュンチュン……!


……いや、スズメ元気すぎるだろ

どこに移動しても鳴き声が聞こえるって。


「おー、早起きだな」


振り返ると、義兄さんが寝室から出てきた。


「おはようございます。今日のスズメ、めちゃくちゃ元気ですよ……」


「マジで?」


「マジです……。声のボリュームがすごくて、どこにいてもチュンチュン聞こえて来るんですよ……」


義兄さんは「そっかそっか、スズメ元気なんか♪」と笑いながら、リビングと玄関をつなぐドアを開けた。


そのまま、こちらを振り向いて手招きしてくる。


……なんだろう?と玄関に行くと

そこには――


鳥かごに入った、1羽のスズメがいた。


……は?いた???


っ!?ええええええええ!?!?!?!?!?!?

玄関に!スズメ!家の中にスズメがいる!!!

しかも鳥かごに入ってる!!!


目の前の光景に、僕の口は開いたまま塞がらなかった。


「ど、どどど……え!?

え!?スズメ!?どうしたんですか!

スズメ!?」


すると義兄さんは、笑顔でこう答えた。


「いや〜

弱ってたから連れて帰ってきたんだよ☆」


……え、☆じゃないよ。


弱ってたって……

野生のスズメを家に?

なんでだよ!?


鳥かごの中のスズメは、暴れている。

元気いっぱいだ。

飛びたくてしょうがない様子。


戸惑っていると、寝室の方から寝ぼけ眼の姉ちゃんが出てきた。


「何、2人で話してるの〜……って

えええええ!?スズメ!?なんでいんの!?」


そうなるよね……。


「いや〜、スズメ弱ってたから連れて帰ってきちゃった☆」と、変わらずにこにこの義兄さん。


呆然とする姉ちゃんと僕。


「姉ちゃん、義兄さん……変だよ……」


「……知ってたわ」


そんな僕たちをよそに、義兄さんは本気で言う。


「え!?なんで!?可哀想じゃない!?

だって、スズメ弱ってたんだよ!?

放っておけないじゃん!!」


いや、言いたいことは分かるんだけど……

野鳥は、病気やダニのリスクもあるから

勝手に持ち帰るのはNGだし

動物病院でも、診てもらえないことがあるくらいなのに。


……なのに何故、家に連れて帰ってきた。


しかも、目の前のスズメ。

さっきから、めちゃくちゃ元気なんだよなー。


感情に任せて動く義兄さんに圧倒されていると

姉ちゃんが頭を抱えながら僕に言った。


「とりあえず、レイは子供たち起こしてきて…

私は、尚人を説得するから……」


姉ちゃん、どんまい……。


┈┈┈┈┈┈┈┈


結局、義兄さんは説得されてスズメは

外に返された。


低空飛行だったけど

結構、遠くまで飛んでいったらしい。


義兄さん、とんでもねぇや。

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