タカミオの見た夢


バスを降り、千穂は避難先が千穂の家から近いタカミオと。

奈緒ちゃんは狙い通り、木下君がちょっと回り道して送って貰う事になった。


家まで二十分ちょっと。

最初は無言で、砂利道の音だけを聞いて歩いた。

それは意外と心地よい沈黙で、色々考えたい事がある千穂には丁度よかった。

道程半分歩いた頃、タカミオが静かに口を開いた。


「さっきの夢の話さ。小さい頃からずっと続いてるんだ」


「そうなの?ずっと何回も同じ夢なの?」


「いや。最初はさ、もうハッキリ覚えてないんだけど小さい女の子と話してる夢で」


タカミオの声は静かで、水面の波紋のように広がってる感じがする。


──声も、好き。


「で、途中で自分と同じペースで、その女の子も成長してるのに気がついたんだ」


「一緒に育ったってこと?」


「うーん、女の子と話してるって言うかさ、一方的に話し掛けられてるってのが近いのかなぁ、と思う。でもそうだね、自分の年と一緒にその子も大きくなっていってて」


「うん」


「夢では自分は動けないし喋れないんだけどさ、嫌な夢じゃなかったんだよね」


タカミオは、うす暗くなってきた空を見上げた。


「転校してきてからは、もう夢を見なくなった」


「好きな夢だったら寂しいね」


タカミオは立ち止まり、千穂に向き直った。

千穂の足も自然に止まる。


「寂しくないんだよ、それが。だってその女の子、千穂にそっくりなんだ」


「ええ!?そんなことある?」


「俺もびっくりしたけどね。まあ、最初は夢だったけど。色々話してるうちに、その夢の女の子、じゃなくて千穂の方が気になるようになってさ」


──これは、どういう意味なんだろう?

私は、何て答えれば良いの?

タカミオ、いつから千穂って呼んでるの?

昨日までは──ちーちゃん、だったよね?


「まあ、それだけなんだけどさ。夢は見なくなっちゃったんだよ」


「え、あ……そ、そうなんだ……。そうだ!私の夢はね、お団子とかお花をお供えする夢なの!あとは時々怖い夢かなぁ」


千穂は早口で喋り続け、家の前に着いた。


「送ってくれてありがとう」


「うん、じゃあまたね」


薄暗い街灯とタカミオの後ろ姿を見送り、千穂は玄関に入って、止めていた息を吐き出した。


「おう、千穂楽しかったかー?」


父親が呑気に話し掛けてくる。


「うん、名探偵ドイル見てきたんだ」


「お、映画結構高かったろう!?ゴールデンウィークだしな、お小遣い厳しいんじゃないかー?」


父親は財布から千円札を三枚、千穂にくれた。


「あなた千穂さんはね──お義母さんから、お年玉もお小遣いもいっぱい貰ってたのよ?ちゃんと持ってるんだから──」


義母が言いかけて、口を噤んだ。

父親が、驚いたような怒ったような顔で継母に向き直ったからだ。


「おまえ、婆さんが死んでから千穂に小遣いやってないのか?」


「だって、千穂さんはちゃんとお金持って──」


「そういう問題じゃないんだよ。知ってるか?俺はな、最近近所の人、先生、会社でも、だ。千穂の事が心配だって言われてるんだよ」


「そんな……でも……本当に持ってるじゃない……」


「昼食が菓子パン1個って、先生から聞いた時の俺の気持ちがわかるか?千穂だって俺の子なんだ」


「それは──千穂さんがパン好きだから──」


「愛梨は?同じ食生活なのか?」


「…………」


千穂はいたたまれず、二階の自室に戻った。

継母との関係悪化が気まずいけれど、父親の言葉はじんわり胸に染み込んだ。


──お父さんはあんなだけど、私のために怒ってくれた。

私を邪魔なわけではないんだ──。


少し気分が良くなって、部屋に隠してあるスナック菓子を夕飯代わりに食べながら、携帯を眺めた。

いつの間にか未読がいっぱい。


──あら?澤田君が退院したんだ。

ふーん、具合悪すぎて携帯取り上げられてたんだぁ……。

ええ?夢遊病って!ホントにあるんだぁ…。

澤田君、携帯大好きだもんね。

そうか、ゴールデンウィーク明けから来るのね。

仲のいい木下君はきっと大喜びね。


私も……タカミオに会いたいな。


──でも。


気になるようになった、ってどういう意味だったんだろ……。


──それに"千穂"、って!いつから?

嬉しいけど、なんで──?




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