木塚龍也の秘密を探れ!

みららぐ



私、妃由は。

この度、学校一のイケメン男子「木塚拓海くん」と、晴れてお付き合いすることになりました。


「え!?妃由、あの木塚くんと付き合ってんの!?」

「うん、そうだよ」


ずっと片思いだった拓海くんを見事手に入れた翌日。

私は早速、クラスの女子達にそのことを自慢しまくっていた。


お昼休みが始まった慌ただしく賑やかな教室。

私は昨日の拓海くんとの会話を女子達に話す。


「ほら、私って可愛いじゃない?だから、拓海くんもずっと私のこと気になってたみたい」

「…へぇ。それで?」

「でね、昨日の帰り道に拓海くんから“ずっと妃由のことが好きだった”なんて告白されて、その流れでキスまでされちゃってもう恥ずかしいったら…でね、そのあと」


しかし。

私が話を続けようとすると、目の前で話を聴いていた女子達が不意に話に口を挿んだ。


「ひ、妃由?後ろ…き、木塚くん来てるよ」

「!?」


その言葉に勢いよく後ろを振り向くと、なんといつから聞いていたのか「拓海くん」が私の斜め後ろに立っていた。

私はまさか拓海くんがすぐそばに居たなんてもちろん知る由もなかったから、ビックリして思わず変な声が出てしまう。


「ひゃ…!?」


その直後に至近距離で目が合うと、拓海くんが何ともわざとらしい優しい笑みを浮かべて私に言った。


「楽しそうな話してるね?」

「え?あー…と、そう…かな?」


無論、この話は拓海くんに聴かれてはマズイのである。

だって私は拓海くんに一言も「好きだ」なんて言われてないし、キスだってされてもない。

むしろ「好き」と言ったのは私の方だし、付き合い出したのは本当だけど、それって完全に私の拓海くんへの「脅し」があってそうなったのだから。


そしてこの何とも言えない空気に耐え切れなくなって逃げようとした瞬間、拓海くんがそのわざとらしい笑顔のまま言った。


「一緒にお昼どうかなって思って教室まで来たけど、もしかして邪魔だった?」

「!…っ」


私はその問いかけに勢いよく首を横に振ると、拓海くんに言った。


「ううん、平気!」

「…」

「一緒に食べたい!」



…………



私は出来ればこのまま教室で拓海くんをクラスの皆に見せびらかしながら食べたかったけど、拓海くんに却下されて他に誰もいない場所まで来た。

屋上に続く階段。

私がさっきのこともあってビクビクしながらいると、不思議そうな顔をした拓海くんが言う。


「…?どした?隣、座れば?」

「え?あ…うん!」

「?」


拓海くんにそう促され、私はドキドキしながら拓海くんの隣に座る。

脅しで付き合ってるとは言え一応恋人同士だけど、でもそんな風に意識したら余計に照れくさい。

私が自分のお弁当箱を開けながらさりげなく横目で拓海くんのお弁当を盗み見ると、拓海くんのお弁当には智輝くんが作ったと思われるハンバーグや卵焼きなどが入っていた。


「っ、美味しそうだね!おかず1個交換しない?」

「え?…何が欲しいの」

「そのハンバーグ!2個入ってるし1個くらいいいでしょ?」


私が遠慮なくそう言うと、拓海くんが「え~」と嫌そうな声を出す。

すると私は、自身のお弁当に入っている鶏の唐揚げを指さして言った。


「その代わりコレ持ってっていいから!(冷凍食品だけど)」


私がそう言うと、拓海くんが「それなら」とおかずの交換を許してくれる。

早速拓海くんのお弁当からハンバーグを持って行くと、私はそれを一口、口に含んだ。


「…あ、ハンバーグに何か入ってるね」

「え、何。何入ってんの。チーズ?俺まだ食ってないしわかんねぇ」

「いや、チーズって言うか…卵かな」


うん、たぶんこの感じはウズラの卵だ。

ハンバーグに入ってると美味しい!

拓海くんも食べなよ!と隣を見ると、拓海くんはお弁当の中に入っているおかずの“しめじ”を抜く作業に集中しているらしかった。


「…しめじ苦手なの?」

「いや俺キノコ類全般ダメで。それなのにアレルギーじゃないからって智輝が入れてくんの」

「せっかく智輝くんが作ってくれたのにー」


じゃあ要らないなら私が食べてあげる。

私はそう言うと、拓海くんの返事を聞かずに遠慮なくしめじのナムルのようなおかずを持って行く。


「美味し~。智輝くん料理上手だね」


私がそう言うと、隣にいる拓海くんが「すげぇ褒めるじゃん」と笑った気がした。

その笑顔にはっきりと違和感を覚えた私は、思い切って拓海くんに言ってみる。


「…ねぇ」

「うん?」

「あなた、拓海くん…じゃない、でしょ」


私がそう言うと、拓海くんを名乗るその人の手の動きがピタリと止まった。


「龍也くん、でしょ」







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