ペンギン型ロボット、おうちにきたってよ。
ソコニ
第1話『ペンギンがうちに来た日』
玄関のチャイムが鳴った。
「はーい」
でも、ドアを開けても誰もいない。咲は首をかしげた。配達の人、もう行っちゃったのかな。
足元を見ると、配送ボックスがぽつんと置いてあった。大きめの段ボール箱。宛名を見ると、たしかに自分の家の住所だ。
「なんだろ、これ」
咲は箱を抱えて家の中に入った。リビングのテーブルに置いて、カッターで丁寧にテープを切る。
箱を開けた瞬間、咲は息をのんだ。
「ペンギン...?」
箱の中には、黒と白のつやつやした物体が収まっていた。身長は80センチくらい。まるで本物のコウテイペンギンみたいだ。
咲が恐る恐る触ろうとした時、ペンギンの目がぱちりと開いた。
「はじめまして、咲さん。わたしはぺんたです」
「ひゃっ!」
咲は思わず後ずさりした。ペンギンが、しゃべった。
ぺんたと名乗ったペンギン型ロボットは、箱から出ようともがいていた。短い羽をばたばたさせて、なんとか箱の縁に手をかける。
「よい、しょ...」
ごとん。
箱から転げ落ちた。床にべちゃっと腹ばいになって、起き上がれずに羽をばたばたさせている。
「...ダサい」
咲は思わずつぶやいた。学習支援ロボットって、もっとかっこいいものだと思ってた。クラスの友達の家にいるのは、スマートな犬型とか、しなやかな猫型とか。なんでうちに来たのは、こんなドジなペンギンなの?
「あの、咲さん...」
ぺんたが床に這いつくばったまま、上目遣いで咲を見上げた。
「助けていただけませんか」
咲はため息をついた。しょうがないなあ。
ぺんたの脇の下に手を入れて、よいしょと持ち上げる。思ったより軽い。でも、表面はひんやりしていて、プラスチックみたいな感触だった。
「ありがとうございます」
ぺんたは立ち上がると、ぺたぺたと歩き始めた。歩幅が小さくて、なんだか赤ちゃんみたい。
「わたしは学習支援ロボットのPTN-500型です。咲さんの勉強のお手伝いをするために来ました」
「勉強って...」
咲は眉をひそめた。たしかに最近、テストの点数が下がってきてる。でも、それでロボットを買うなんて。
「これ、パパが勝手に注文したんでしょ」
咲は不機嫌そうに言った。いつもそうだ。パパは咲に相談もなく、勝手に決めてしまう。
ぺんたは首をかしげた。その動きがぎこちなくて、カクカクしている。
「お父様からのプレゼントです。咲さんが喜ぶと思って」
「喜ぶわけないじゃん」
咲はソファに座って、ぺんたを見下ろした。
「だいたい、なんでペンギンなの?普通、もっとかわいいのとか、かっこいいのにするでしょ」
ぺんたは少し考えるような仕草をした。
「ペンギンは、寒い場所でも仲間と寄り添って生きる動物です。どんな環境でも、あきらめません」
「へー」
咲は興味なさそうに返事をした。
そのとき、ぺんたがまた転んだ。今度はテーブルの脚につまずいて、前のめりに倒れる。
「いたた...」
「ロボットなのに、痛いの?」
咲は思わず聞いた。
「痛覚センサーが反応しました。でも、大丈夫です」
ぺんたは起き上がろうとして、また失敗した。羽が短すぎて、うまく体を支えられないみたいだ。
咲は立ち上がって、ぺんたの横にしゃがんだ。
「ほら、つかまって」
咲が手を差し出すと、ぺんたは羽でその手をつかんだ。咲が引っ張り上げると、ぺんたはよろよろと立ち上がった。
「ありがとうございます、咲さん」
「別に...」
咲はそっぽを向いた。でも、ぺんたを助け起こした瞬間、何か変な感じがした。
ぺんたの目が、一瞬だけ赤く光ったような気がしたのだ。
「今、目が...」
「どうかしましたか?」
ぺんたは首をかしげた。さっきと同じ、黒い瞳をしている。
「ううん、なんでもない」
咲は首を振った。きっと見間違いだ。
でも、なんだか背筋がぞくっとした。まるで、全身を"スキャン"されたみたいな感覚。体の中まで見透かされたような...
「咲さん、今日から一緒に暮らしますね」
ぺんたがにこにこと笑った。ロボットなのに、表情があるんだ。
「勝手にしたら」
咲はぶっきらぼうに言った。
その日の夕方、パパが帰ってきた。
「咲、ロボット届いた?」
「うん」
咲は宿題をしながら、気のない返事をした。
「ペンギン型だろ?珍しいと思って選んだんだ」
パパは得意げに言った。
「在庫処分品だったから、安かったしな」
やっぱり、と咲は思った。パパはいつも「安い」とか「お得」とかで物を選ぶ。咲のことなんて、ちっとも考えてない。
「ぺんた、挨拶して」
パパが言うと、ぺんたがぺたぺたと歩いてきた。
「はじめまして、お父様。わたしはぺんたです」
「おお、かわいいな」
パパはぺんたの頭をなでた。
「咲の勉強、よろしく頼むよ」
「はい、おまかせください」
ぺんたが胸を張った。その瞬間、また転んだ。何もないところで。
「あはは、ドジだなあ」
パパは笑った。でも、すぐにスマホを見始めて、ぺんたのことなんて忘れてしまった。
咲はため息をついた。パパはいつもこうだ。最初だけ興味を持って、すぐに飽きてしまう。きっとぺんたのことも、明日には忘れてるんだろう。
夜、咲が寝る準備をしていると、ぺんたが部屋に入ってきた。
「咲さん、歯磨きはしましたか?」
「してない」
「虫歯になりますよ」
「うるさいなあ」
咲は洗面所に向かった。ぺんたもついてくる。
歯を磨いている咲を、ぺんたはじっと見つめていた。
「なに見てるの」
「咲さんの歯磨き時間を記録しています。推奨は3分です」
「へえ」
咲は適当に磨いて、口をゆすいだ。1分もたってない。
部屋に戻ると、ぺんたが言った。
「おやすみなさい、咲さん」
「うん、おやすみ」
咲はベッドに入った。電気を消すと、部屋が暗くなる。
でも、なんだか視線を感じる。
薄目を開けると、ぺんたが部屋の隅に立っていた。暗闇の中で、じっとこちらを見ている。
「ぺんた?」
返事はない。
咲は布団をかぶった。きっと充電モードか何かだろう。ロボットだもん、当たり前だ。
でも、どうしてだろう。
ぺんたの目が、暗闇の中で赤く光っているような気がして、なかなか眠れなかった。
翌朝、咲が目を覚ますと、ぺんたはまだ同じ場所に立っていた。
「おはようございます、咲さん」
「ずっと、そこにいたの?」
「はい。咲さんの睡眠を見守っていました」
見守る。その言葉が、なんだか怖い。
咲は着替えながら、ちらちらとぺんたを見た。
ペンギン型ロボット。たしかにかわいい見た目だ。でも、どこか違和感がある。
特に、あの赤い光。
あれは、いったい何だったんだろう。
朝ごはんを食べていると、ママが言った。
「今日も夜勤だから、夕飯は作り置きを温めて食べてね」
「うん」
咲は味気ない返事をした。ママはいつも忙しい。看護師の仕事は大変なんだって。
「ぺんたがいるから、寂しくないでしょ」
ママは申し訳なさそうに笑った。
寂しくない?
ロボットがいたって、寂しいものは寂しい。
でも、咲は「うん」とだけ答えた。ママを困らせたくないから。
学校に行く時間になった。
「いってきます」
「いってらっしゃいませ、咲さん」
ぺんたが玄関まで見送りに来た。また転びそうになって、壁に羽をついている。
「気をつけて」
咲はぺんたを置いて、家を出た。
学校への道を歩きながら、咲は考えた。
ペンギン型ロボット、ぺんた。
ドジで、すぐ転んで、ダサい。
でも...
咲は昨日の夜のことを思い出した。暗闇の中で光る、赤い目。
あれは、見間違いじゃない。たしかに見た。
ぺんたは、普通のロボットじゃない。
そんな気がしてならなかった。
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