07-8・喧嘩を売られたがどういうわけか……

まだ1か月しか経っていないのに、すでに切り札を使ってしまっている。

いや、実はまだ切り札的なものは残っている。

攻略対象のルートを進める中で必ず登場する「切り札的なキャラ」や「特別な材料」が存在する。

今はそのうちの2つを使っているにすぎない。


──使わなければ、俺たちが死ぬフラグが立ってしまうからだ。


その切り札のひとりが、勇者「庭師のヴィクター」。

通称「光翼の双剣士ヴィダール」。

見た目は20代の青年だが、実際には100以上を生きている。

彼のフラグが発生するのは、ダミアンルートの最後。

学園内に不穏な空気が漂いはじめ、主人公エミールの剣の腕がレベル10以上になると、寮の裏庭で剣の練習をしている最中に突然「庭師のヴィクター」が現れる。

そんな仕掛けだ。

だからこそ、俺はあえて寮の裏庭ではなく、夜にヴィクターが住む近くの学園裏庭でひとり、剣の練習を始めていた。

もし彼と接触できれば、ダミアンやアレクサンダー、そして執事のセバスチャンに声をかけるつもりだった。

夜、ひとりで剣を振るう。

光魔法を剣に宿し、何度も何度も剣を振り下ろす。

来るか来ないかはわからないが、目立つことはしているつもりだった。

どれくらい時間が経っただろうか。

「今日はだめか」と諦めかけた、その時。


「こんな夜更けに剣の練習とは、関心せんのう」

「ま、マーリン校長?!」


いつの間にか背後に立っていた校長に思わず声を上げる。

狙っていた人物ではなかったので、少しがっかりした。


「ほっほっほ」


笑いながら校長は庭のベンチを指さし、座るよう促す。

渋々従い、校長の隣に腰を下ろすと、緊張が走った。


「わかっていると思うが、3日後には星冠決闘があるな?」

「はい……」

「君たちでは虚風の旋風の異名を持つセドリック君には勝てん。そうわかっておるな?」

「……はい」


次々と突き刺さる言葉。

無理もないことだが、岩を頭から落とされたような重苦しさに胸が塞がる。


「でだ。お主にいい師匠を頼んでおいた。明日、夕食を済ませたらまたここへ来るがよい。もちろん、アレクサンダー君とダミアン君も一緒にな」


ウィンクを飛ばされ、思わず苦笑してしまう。

マーリン校長の考えはわからないが「もしかしたら、庭師のヴィクターを呼んだのかも?」と淡い期待が胸をよぎった。


「それでは、またな」


そう言うと、校長は煙とともに消えた。


「……とりあえず、校長の言葉を信じてみるか」


その夜、俺は自分の寮へ戻った。

いつものように執事であり、虎の獣人でもある「ラグナル」が温かく迎えてくれる。

風呂に入り、体を休め、ゆっくり眠りについた。

まさか、あの方が俺たちの剣の相手になるとは──

この時は夢にも思っていなかった。

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