第49話 過去、七歳のとき11

「私の影魔法であればルナタイトからの光を遮り、魔力の供給を途絶えさせることで魔法陣を無力化することも可能ですので、コアを破壊する必要はありません」


 コアを破壊することに待ったをかけたミレスの口から、等々と理由が語られ。


「ただ、その間は無防備となってしまいますので、おそらくは標的をこちらへと変えるであろうアイアンゴーレムを、押し止めながらに倒し切る必要があります」


 続けて、その策を実行した場合に置ける注意点に関しても、端的に教えてくれた。


「ちなみにだけど、取り外したりとかはやっぱり無理かな?」


 されど駄目元で、ルナタイトを取り外すという手段は取れないのかと尋ねる俺。


「ですね。活性状態のルナタイトは非常に砕け易く、無理に取り外すのは危険です」


 だが、予想通り、ミレスにそれは止めておいたほうがよいと、言われてしまう。


 というのも、満月の夜に通常時よりも多く魔力を生み出す活性状態となるルナタイトは、その状態時には非常に脆くなるので、壊さず取り外すのが至難だからだ。


「だよね……」


 アーシェとレイテの強化を狙って、満月の夜を選んだのが完全に裏目に出ている。


「もっとも、そうでなくとも無理矢理に取り外そうとすれば、何かしらの仕掛けが作動し、最悪はルナタイトが破壊される可能性も十分にあり得るでしょう」


 まあ、続くミレスの言によれば、仮に満月の夜でなくとも同じだったみたいだが。


「なので。仕掛けの全貌をしっかりと調査してから取り外すべきです」


 なんにせよ、ルナタイトを取り外すという短絡的な手段は取れないようであった。


「ふむ……」


 となれば、問題となるのは押し止められるか否かだと、俺は戦闘の推移を窺う。


 先ほどまでアーシェは、アイアンゴーレムの周りを飛び回り、振り回されるメイスや、シールドバッシュなどの攻撃を避けては、その深紅の槍で反撃していたが。


 しかし現在は、距離を取るように立ち回り、アイアインゴーレムが追い縋りながら振るうメイスを回避しながら、反撃せず深紅の槍へと魔力を充填し続けており。


 当然ながら、今の戦闘方法から足止めできるか否かを判断することは難しかった。


「ちなみにですが。標的が切り替わる確率はどれほどでしょうか?」


「私なら絶対にそのように設定しますから、まあほぼ確実でしょう」


 そして、ラルバとミレスが相談を重ねる傍らに、アーシェはアイアンゴーレムが振り下ろしたメイスをするりと避けると、その股座を潜って背後へと駆け抜け。


「ふんっ!」


 アイアンゴーレムが振り向く前に反転して槍を投擲して、同時にアーシェも飛ぶ。


 次の瞬間! 轟音と共にアイアンゴーレムの背に槍が突き刺さり!


 その刹那の後に空中に作った足場の魔法陣を蹴って更に加速したアーシェの跳び蹴りが、釘打ちのように槍の柄に叩き込まれ、より深く槍を減り込ませ!


「弾けなさい」


 だけに止まらず、すぐさま槍の柄を蹴って空中へと逃れたアーシェが一言つぶやくと、同時に槍が爆発して弾け、間髪入れずにそこへ更に魔法が降り注ぐ!


 それはアーシェの手のひらの先に展開された魔法陣から放たれた、血で形成された無数の深紅の矢で、それらはアイアンゴーレムの背に当るなり炸裂する!


 ただ、残念なことに追い打ちとして放たれた矢の魔法は、再生力とほぼ拮抗してしまい、槍の爆発によって穿たれていた穴を、僅かに拡大しただけに止まり。


「うーん。割と大きく抉ったのに、もう直ってしまうのね」


 すたりと着地したアーシェが表情を曇らせたように、その巨体からしても割と大きく穿たれたその穴も、攻撃が止むと見る見る内に再生を完了してしまった。


 硬さと修復機能で相手を追い詰めるというゴーレムの真骨頂が発揮された瞬間だ。


 そうなのだ。ゴーレムとは本来、その圧倒的な硬さと修復機能でもって持久戦に持ち込み、じわじわと相手を追い詰め勝利するというコンセプトの兵器であり。


 更にその成り立ちを言えば、本来は多数の格下を……つまり人族の軍隊を、その硬さと修復機能で圧倒して蹴散らすことを想定して、作られた兵器なのである!


 つまり、その点で言えば、外のゴーレムたちが修復機能をまるで持たなかったのは不自然なことだったのだが、しかし魔法陣の存在が暴かれた今は納得しかない。


 これだけの再生能力を付与できる外部装置があるならば、硬さとトレードオフになる上に大きく劣る修復機能を本体に搭載する意味など、まるでないからである。


 まあ、絶賛ゴーレムと対峙中の俺たちには堪ったものではないのだが……。


「あっ、やべ」


 と、そんなことを考えていた俺の耳に、レイテの慌てた声が飛び込んで来る。


「て、おい! 普通にコアも再生するじゃん!」


 続いた声から、どうやら謝ってコアを破壊してしまったのだと思われたが、その結果としてコアまでもが再生してしまうという衝撃の事実が突き止められた。


「なんと。まさかそれほどに高度な魔法だとは……」


「となると、ミレス様の案を実行するしかありませんね」


 驚きに目を見開いたミレスと、こうなれば最早と口にしたラルバ。


「コアが再生するって! 本当ですのっ?」


「ああ、アーシェ様。今もう一度試してみたから間違いない!」


 声を張り上げて会話をし、事実を再確認してくれるアーシェとレイテ。


「お兄様! どうしますの?」


 どうすると言われれば、ラルバの言う通りミレスの案を実行するしかないだろう。


「アーシェ様! これより魔法陣を無効化しますので、足止めをお願いします!」


 あるいは一度撤退するという案もあったが、提案する前にミレスが動いてしまい。


「わかりましたわ!」


「そういうわけですので! 騎士のお三方は、それまでは消耗をできるだけ抑えて時間稼ぎに徹し! 魔法陣を無力化したのちに、反転攻勢に出てください!」


「おう!」「「承知!」」


 アーシェが応じ、ラルバが指示を飛ばしたことで、なし崩し的に作戦が始動する。


「いきなりですの?」


 広間の中央にミレスが駆け込むなり、途端に動きを変えた、アイアンゴーレム。


「なるほど。どうやら中央に近いほうを標的にするようですね」


 ラルバが言ったように、目の前のアーシェではなく、ミレスを狙おうとしたのだ。


「こ、この……」


 なんとか足止めをしようとするアーシェだったが、相手は再生能力に物を言わせて、多少の傷など物ともしないアイアンゴーレムなので完全には止め切れず。


「サレア。アーシェ様の援護を」


 徐々にミレスへと迫る様を見て取ったラルバが、予備戦力たるサレアを動かした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る