第10話 幕間2
魔王リザブロの懸念。
「しかし。やはりおまえたちもフィーロが魔王を目指していると思ったか……」
それはフィーロが魔王を目指していると勘違いしているがゆえのものであり。
「やはり。身内で相争うことを憂いておられるのですね」
ミレスが言ったように、当の本人を含めレジエスこそを次代の魔王にと考えているラーステア一派と、フィーロたちが相争うことを憂慮してのことだった。
「わかるか?」
もちろんフィーロには争う気などまるでないのだが。
「でなければ、最後にあのような問いかけはしないでしょう」
長年仕えていた主の心中を推し量ることはできても、やはりまるでフィーロの心中をわかっていないミレスが断言してしまったことで。
「強く成り上がるのが魔族の性ゆえ、仕方ないとはわかっていても、な」
魔王リザブロは勘違いを確信へと深めて、まだ見ぬ未来を憂う。
「あー。そういえば、魔王様は一族の再興を目指しているのでしたっけ? そりゃあ子供達には争って欲しくないですよね」
が、一方でやはり機微に疎いグルストは、若干的を外した感想をもらし。
「……」
「はぁー。まったく。それもありますが、それ以上に御子への情があるのです」
魔王リザブロの閉口と、それを受けてのミレスの呆れを招いてしまった。
「えっ? そうだったんですか? 全然会いに行かれないからてっきり俺は……」
「まったく耳まで悪くなったのですか? 先ほどおっしゃってもいたではありませんか。ラーステアの不興を買わないようにあえて距離を置いていたと」
本来は魔王リザブロの言葉を聞くまでもなく察して当然だがと、心の中でそう思いながらも手のかかる同僚に言葉を尽くしたミレス。
「ああ。そういや言ってましたね。じゃあ本当は会いに行きたかったんですか?」
しかしそれでも、やっぱり機微に疎すぎるグルストは言葉を間違え続け。
「そうに決まっているでしょう。わざわざ口にさせるのではありません!」
「あれ? いやでもレジエス様にも会いに行ってなかった気が……」
ミレスがぴしゃりと窘めたその甲斐も虚しく、地雷を踏み込んでしまう。
「それはですから、せめてもとフィーロ様に平等性を示していたのですよ」
それでも尚ミレスが、せめてフィーロに不平等感を与えないために子供事態に関心がないように振舞っていたのだと、事実を交えてフォローするが。
「えっ、でも。フィーロ様が生まれる前からそうじゃありませんでしたっけ?」
しかし、グルストは更に深堀って、地雷を爆発させた。
「それは……」
言い淀むミレス。
「……あの頃は、シフィリエに夢中であったのだ」
それを受けて、重苦しく言葉をこぼした魔王リザブロ。
そうなのである。あの頃、魔王リザブロはフィーロたち兄妹の母親であるシフィリエに夢中になっており、ラーステアたち妻子を疎かにしていたのだ!
それは丁度、今から十年前の出来事であり。
ラーステアが魔王の長子であるレジエスを生んだ年にシフィリエと出会い、そして一目惚れをした魔王リザブロは、二人をそっちのけで入れ上げていたのだ。
「ああ! そういやそうでしたね!」
「そうでしたね! ではないこの脳筋おバカ! ああもう本当に、だからそういうところが駄目だと言っているのです!」
ラーステアとは政略結婚であったこともあり仲が微妙で、そのうえ魔王が複数人の妃を娶ることも別に珍しくないこととはいえ、疎かにしたのはいただけず。
「私もどうかとは思っていましたが、ぐっと堪えていたのですよ!」
そのため、忠臣ながら……いや忠臣であるからこそ、言うべきことは口にするタイプのミレスは、どうせ言及してしまったのならばと苦言をぶつけていくが。
「どうかとは思っていたのだな……」
「ええはい。恋は盲目とは言えど、さすがに少々目に余りましたので」
ただ、多少はとミレスがお目こぼししていた間に、五年という魔族の生からするとあまりにも短い年月で、シフィリエと死別していた事実があったうえに。
「ですが、反省もされておられるようなので、これ以上は申しません」
今や魔王リザブロも反省はしていたので、ミレスはそれ以上は追及せず。
「それよりも、フィーロ様の護衛騎士についてはどういたしますか?」
フィーロが執務室を訪ねて来る前まで話し合っていた議題へと水を向けた。
「そうだな。グルストよ。どう思う?」
すると魔王リザブロも助かったとばかりに、グルストへと問いを投げる。
「無論、俺としては息子たちを護衛騎士とすることに異論はない」
護衛騎士の候補として挙がっていたのが、グルストの子供たちだったからだ。
「フィーロ様の臣下の忠誠を見極めたいという意向を鑑みれば、当然に真実を話すことはできませんが、その点を理解したうえでの結論でしょうか?」
「むっ、そうか。そうなるのか……」
ミレスの指摘を受けて、考えてもみなかったと顎を撫でるグルスト。
「はい。そのため表向きは魔力適正欠陥の咎で幽閉されることになりますので、その護衛騎士に任じられるということは、つまりは左遷になりますね」
「となると、まず間違いなく反発するだろうな」
というのも、グルストの子供たちは向上心の強い魔族らしい魔族であり、それを鑑みれば左遷となる人事に反発するのは目に見えていたからである。
「だが、実際には大魔王クラスなのだからな。俺は一向に構わん!」
だが、それでも構わぬと、グルストは人事を通そうとする。
「いえあの。構うのは子供たちだと思うのですが……」
「そりゃあまあ反発し、嫌々任に就くであろうが。傍に控えることになるのだからな。そのうちフィーロ様の実力に気付くだろうさ」
むしろその実力を知ったほうが反発は大きくなるのだが、フィーロの実力を勘違いしているグルストからすれば、子供を勝ち馬に乗せる感覚だからだ。
「場合によっては、その前にフィーロ様に見限られる可能性もありますが?」
そんなグルストに、場合によってはと最終確認を取るミレス。実際にはフィーロが見限られることはあっても、見限ることなどできはしないのだが。
「まっ。そのときはそのときだな」
ともあれ、あまりものを考えていないグルストは呆気からんと言ってのけ。
「そうか。ならば決定としよう」
それを魔王リザブロが是認したことで、ここにフィーロの護衛騎士が決定した。
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