第11話 魔力の研究ー精霊の魔力について。



 リーファ村の『冬の子』。


 奇跡の体現者にして村の救世主、らしい。


 村中に渦巻いていたあの強大な冬の魔力を喰い尽くし、村を救ってから丸三日眠りこけた後、俺は目を覚ました。母の腕の中で身を起こすと、視界に飛び込んできたのは驚きと、そして感謝と畏敬に満ちた家族の顔だった。


 村人たちも同じだ。凍り付くような寒さから解放された安堵と、わけもわからぬ奇跡への畏怖が彼らの表情に浮かんでいる。俺が動くたび、その小さな身体に向けられる視線はまるで神でも見るかのようだった。


「ゼフィ……お前が、この冬を……それに、この手の痣は……」


 父が震える声で呟き、母は涙を流しながら俺を抱きしめた。兄と姉は、まだ幼いながらも、何が起こったのかを本能的に理解しているようだった。


 なんかよくわからんが、俺のした行為が認知されているのか、これは。魔力視も魔力操作もできないような村人に俺の魔力操作を見破れるわけがないはずだが……。


 そう不思議に思い、ふと水を飲もうとすると、髪の色が変色していることに気が付いた。その他にも、手の甲に模様が付いている。


 俺の身体には、その御業の代償が刻まれていたのだ。


 元々、家族と同じ茶色の髪と瞳をしていたはずの俺の髪はその三分の一ほどが雪のような白に染まっていた。あの冬をその身に宿したかのように。そして最も目を引く変化は俺の右目だった。


 これまでと同じ茶色の左目とは対照的に、右目は鋭い光を宿した白銀色に変色していた。魔力視の能力が極限まで高まった結果なのか、それともあの冬の魔力を取り込んだ影響なのかは不明だが、そこから冷たい輝きが放たれている。


 あら、イケメンになっちゃったわね。おほほ。


 家族はその変貌した俺の姿を見て動揺したらしい。


 それでも母は俺を抱きしめ、父は静かに力強く拳を握った。兄と姉も、少し怖がる素振りを見せながらも、俺を囲むように身を寄せた。彼らは俺が何者であろうと、俺を家族として受け入れたのだ。


 さすがにこんなわかりやすく変容してたら放逐されてもおかしくないと思ったが、うちの家族は一味違うようだ。


 冬が去り、それからおよそ四か月。春の訪れとともに、リーファ村に新たな祭りの準備が始まった。


 『七光の祭り』。


 この異常な冬から村を救い、『冬の子』として現れた俺を祝い、そしてその『冬の子』に感謝を捧げる祭りだ。七色に光る雨が降った光景を覚えているらしい。村人たちはこの祭りを希望の象徴として心待ちにしているようだった。


 彼らの興奮と歓喜の声が村中に響き渡る。その熱気を魔力視で捉えれば、喜びの感情が魔力として空気中に溢れているのが見えた。


 へぇ……強い感情は魔力に影響を及ぼすのか。面白い。


 そんな村の喧騒の中、俺の家族の心境は複雑だった。


 村人たちは『冬の子』を神聖な存在として崇める。


 しかし家族にとって俺はただのゼフィのようで。


 彼らがこの祭りに参加する顔は村の皆に合わせるかのように喜びを装ってはいるが、その心の奥底には葛藤と不安が渦巻いているのがTSRと七大錬穴を常に励起している俺には手に取るように分かった。


 特に母は祭りの準備が進むにつれて、時折物憂げな表情を見せた。「ゼフィは、私の子なのに……」そんな思いが、彼女の魔力に微かな影を落とす。


 兄と姉も、村人が俺に特別な視線を向けるたびに、どこか寂しげな表情を浮かべていた。自分たちからゼフィが遠ざかっていくような感覚を抱いているのだろう。


 彼らは俺の異常な身体能力も、目と髪の変色も、そして村を救った奇跡の裏にどれほどの苦痛と危険があったかを知らない。ただ、この奇跡が愛しい我が子を『普通ではない存在』へと変えてしまったという、漠然とした不安に苛まれているのだ。


 不安になっているところ申し訳ないが俺の内心はウキウキである。


 なぜって? それを今から説明しよう!


 端的に言って、俺の魔器は更に強化された。外の、それも大自然の魔力を根こそぎ魔器に詰め込んだせいで、俺の魔器は一か月ほど常に苦痛を叫んでいた。


 しかしその甲斐あってか俺の魔器は更なる進化を遂げた。


 これまでに魔力は複数の形態を取ることは十分すぎるほどわかっていた。


 通常魔力、第一精錬魔力、第二精錬魔力、そしてチャクラ。


 冬の魔力はこれのどれでもない、新しい魔力だった。いや、厳密に言えば俺が取り込んでいた魔力は自然の魔力ではなかった。


 俺が目覚めてから、数日。


 俺が食った冬の魔力は完全に消え去り、そしてあの魔力よりも穏やかな、そして捉えどころのない魔力が大地に満ちていた。本来の冬の魔力だ。ぶっちゃけ干渉できん。仙人とかそういう自然と接続できるような絶技がないと多分無理だと思われる。あと何年かかることやら。


 となると、俺が食ったはずの魔力はどこから来たのか。それは未だわかっていないが、兄の言葉から想像するに精霊だの龍王だのが居る世界。俺の予想だと精霊のものだと考えている。


 冬の精霊の伝承がこの村に伝わっているらしいのだ。俺はその冬の精霊の愛し子として、村中で畏敬の念を受けている。


 精霊の魔力を無理やり取り込んだ影響が俺の身体に出たのが今回の身体の異変の真相であった。変わったのは魔器と身体だけではない。


 母親と共にそれっぽい神輿に乗せられたので、それっぽい現象を起こしてやろう。


 俺の体内に気付けば生まれていた、新たな錬穴。右手の甲に刻まれるように生まれたそれに魔力を通せば、通常魔力を冬の魔力に変換できた。


 変換した冬の魔力を放出し、春に煌めく雪の雨を降らせてやる。


 おー喜んでる喜んでる。夏場とか便利そうだなぁ。


 ま、こんな感じで冬の魔力を生み出せるようになったわけだ。


 なんというか、精霊の魔力は正直かなり濃ゆい。第一精錬魔力よりも、第二精錬魔力よりも濃く重たいのだ。あのときの俺が操作できたのが奇跡レベル。まぁ一度でも奇跡が起こればあとはTSRで感覚を再現するだけだから、今の俺はそれ以上なのだが。


 おそらく第二精錬チャクラと同等くらいの操作難度かな。


 そうそう、もちろん魔器は第二精錬魔力で更に拡張し、家十件分は包み込めるくらいの魔力量になっている。精霊の魔力を内側に入れた影響で魔器の容量が更に二倍になったのだ。


 嬉しい誤算である。


 一応奇跡の子として崇められる程度には俺の魔力チートは進んでいるわけだ。それがわかっただけでも万々歳なのに素敵な贈り物までもらえちゃって。


 ……だが、完全に精霊の冬の脅威を乗り越えたわけではない。未だ発生源がどこかわかっていないし、それに対する根本的対策もない。


 おそらく今年の冬も同じように精霊の冬が来るだろう。


 そのときはまた俺が全部食い散らかしてやる。今の寒さに適応したぼでーならかなり楽に消費しきれるはずだ。精霊の魔力の性質もぜひ研究したいし、何ならウェルカムだ。


 そのうち精霊の本体がどこにいるのか見つけにいかないといけんね。俺の身体が成長して理性的に話しても違和感がないくらいになったら、村の老人辺りに冬の精霊の伝承について詳しく聞いてみるか。





 




 

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