大好きな女の子を守る為なら、どうやら自身の危険を顧みないのが男の子らしい

 ルリアの冷静な制止によって、ほんの少しだけ蚊帳かやの外から状況を様子見していた凛音達。


 しかし、覗き始めて一分も経たない内に、栞の身が明らかな異常事態に巻き込まれている事を確信して、彼はもう一度その身を乗り出した。もちろん、今回はルリアもそれを止める事は無い。


「おいっ!!何してんだよ!!」


 鮮明に視界に映る、金髪の男二人に抑え付けられた好きな人しおりの姿。


 その光景に、純粋な怒りが胸の奥から吹き出して、彼の人生で一度も発した事の無い、ドスのきいた荒々しい声音がこの空間に響き渡った。


 突如として乱入して来た男の声に、少し戸惑いながらも瞑っていた目を開いた栞。その声の主が凛音だと認識した瞬間、彼女のくりっとした大きな瞳から大粒の涙が溢れ出す。


「み、南君……!」

「一条!!」


 震える声音で弱々しく呼ばれた自身の名に、力強く言葉を返した凛音。


 彼女のこんな姿など今の今まで一度だって見た事が無かった為、それだけで栞の置かれている状態がどれだけ緊急性を要するか、それは想像に容易かった。


 好きな人がこんな目に遭わされている事に対して、凛音の沸々と煮え渡る怒りは止まる事無く増長していく。その怒りに我を忘れてしまいそうになるが、少なくとも今は栞の安全を確保するのが何よりもの優先事項であり、堪え切れない感情のたかぶりを一旦押し殺す。


「……その子を離せ」


 この集団のリーダー格である銀髪の男の方にズカズカと詰め寄り、物凄い剣幕で睨み付けながらそう口にした凛音。


 突き刺すような視線を向けられたその男は、怒りを全面的に露にしている彼を舐めるように見回して、相変わらずの下卑た笑みを浮かべながら言葉を返す。


「ちょ、急に誰?友達同士のノリにいきなりしゃしゃり出て来るとか、どういう神経してんのお前?」

「友達……?押さえ付けて殴ろうとしてんのに、どの口がそれ言ってんの?良いからその子を離せ」

「ははっ、話聞いてた?ノリだってノリ。つか本当に誰なの?部外者ならヒーロー気取りとかダルいんで、さっさとどっか行ってくれませんかぁ?」

「俺は、その子の──」

「あ!もしかして、前にShioちゃんが言ってた彼氏!?そうじゃなきゃ、こんな分かりやすくダルそうな現場、わざわざ自分から首突っ込まねーもんな」 


 栞との関係性を答えようとした瞬間、それを遮って楽しそうにそう言った銀髪の男。


 しかし、その男が見せる楽し気な雰囲気とは裏腹に、凛音の頭の中は唐突な最悪の情報で真っ白になってしまう。


──栞ちゃんに彼氏……?


 軽薄な他人が口にした、信用するに値しない程度の知れたまやかしの情報だという事は頭で分かっている。分かってはいるが、それでもその空気より軽い言葉で動揺している自分がいるのも事実であり、凛音は先に続く返答を一瞬言い淀んだ。

 

 すると、そんな彼の様子を見逃さなかった銀髪の男は、まるでほんの少しほころんだ縫い目を強引にほつれさせるかのように、人の感情を逆撫でする煽動的な物言いで口を開く。


「え、違うの!?何だよ彼氏じゃねーのかよ。じゃあマジで関係無いじゃん。ほらとっとと消えて。しっしっ!」


 どうやら、この男にとって栞と恋人という関係性で無ければ、もはやこの場に介入する事はもちろん、相手にする価値も無いらしい。だが、彼女とは友達で、今の所それ以上に至れていないのが事実であり──


「いや、俺は……」


 答え方に戸惑ってその先に言葉が続かない凛音。しかし、あるモノが彼の瞳に焼き付けられた瞬間、脳内で渦巻いていたくだらない小さな迷いが強風に煽られた落ち葉のように吹き飛んだ。


 俯きかけていた凛音の視界に飛び込む、大好きな女の子の曇りきったその表情。


 しかし、顔いっぱいに不安と恐怖が滲んでいる栞だが、そんな彼女の目尻からはもう一滴も涙は伝っていない。もちろん、自然に涙腺の蓋が閉じて涙が引いていったとかそういう単純な話では無く、必死に堪えて、耐えているのだ。震える口元で下唇を噛み締めながらも、何とかギリギリ持ち堪えている。


 限り無い怖さと今にも溢れそうな涙を力づくで抑えて、微かな希望と大きな心配、そして絶対的な信頼を含んだ栞からの視線。それが自身の瞳と交差した時、図らずも凛音のほんの少し下がった顔は、もう一度真っ直ぐ銀髪の男に向けられていた。


──仮に栞ちゃんに彼氏がいたとして、そんなのは今どうでも良いだろっ!!今俺がするべき事は、栞ちゃんとルリアの安全を確保する事ただそれだけ!!


 己の弱みがかった精神にムチを打ち込み、彼は今この場でするべき事を改めて再認識する。


──俺が本当に栞ちゃんの彼氏かそうじゃ無いかなんて、この状況においては一切関係無い。……いや、それどころか、コイツ等が俺の事を栞ちゃんの彼氏だと勘違いしてくれればむしろ……


……気が引ける。


 それが最善策なのか、それとも悪手なのかは正直分からない。凛音自身の身が危険に陥る可能性も十分にある。だが、それを差し引いたとしても、男達の注意を栞から自分に移せるのなら、彼の中でやらない手など無い。


 まさに一瞬と呼べる時間の中で、肩が浮く程に深く息を吸い込んだ凛音。そのまま口を開けて、溜め込んだ息を吐きながらブレない声音で言葉を言い放つ。


「……そうだよ!俺がその子の……!その子の彼氏だ!!」


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