第22章 世界の終わり方

静寂。

それは、もはや彼らにとって空気そのものだった。

どれだけの時間が経ったのか、誰にも分からない。彼らは土手の上に座ったまま、まるで石化したかのように動かなかった。壊れた川、プラスチックの草、白い空。完璧で、完結した、終わりの風景。


その風景に、最初の亀裂が入ったのは、本当に、ほんの些細な出来事だった。


江莉が、瞬きをした、その一瞬。

目の前の、プラスチックの草の色が、一瞬だけ、色褪せた。鮮やかな緑から、まるで燃え尽きた灰のような、味気ない灰色へ。そして、次の瞬きをする前には、また元の緑色に戻っていた。


目の錯覚か、と彼女は思った。この永遠に続くかのような光の中で、視神経が疲弊しただけだろう、と。彼女は誰にも何も言わず、ただ、じっと前を見つめ続けた。


次に異変に気づいたのは、城戸だった。

彼が、ぼんやりと眺めていた、砕けた川の破片。そのうちの一つが、何の予兆もなく、ふっと消えた。まるで、最初からそこになかったかのように。彼は思わず「あ?」と声を漏らし、目をこすった。すると、消えたはずの破片は、また、元の場所に、何事もなかったかのように存在している。


「……おい、今……」

彼が何かを言いかけたが、その言葉は続かなかった。


今度は、四人全員が、同時にそれを見た。


対岸に見える、静まり返った街並み。そのうちの一つのビルが、まるで蜃気楼のように、ぐにゃりと歪んだ。輪郭が溶け、ノイズが走り、一瞬だけ、向こう側の白い空が透けて見える。そして、また元の、硬質なビルの姿に戻った。


それはもう、見間違いではなかった。


「……なに、今の」


璃子の声が、震えていた。

これまで、この世界は、完璧なまでに「偽物」であり続けた。そのルールは絶対だった。頑丈で、変化せず、ただ、そこに在り続けるだけの、巨大な書き割り。


だが、今、その前提が、目の前で崩れ始めている。


ザザ……という、微かな音が、どこからか聞こえ始めた。テレビの砂嵐のような、あるいは、データの読み込みに失敗した時のような、不快なノイズ。音は、次第に大きくなっていく。


空が、明滅を始めた。

白い光が、一瞬、真っ黒な闇に取って代わられ、また白に戻る。まるで、世界の電源が、落ちかけているかのように。


「ハハ……」城戸の口から、乾いた笑いが漏れた。「ついに、この安もんのセットも、ガタが来たか」


杏里は、立ち上がった。

彼女は、明滅する空と、歪む風景を、ただ、じっと見上げていた。

自分が、川を壊したからだろうか。この世界の、たった一つのルールを破ったから、すべてが、壊れ始めたのだろうか。


あるいは、これもまた、最初から決まっていた、プログラムの一部なのだろうか。


分からない。

でも、もう、どうでもよかった。


世界が、終わる。

偽物の世界が、その偽物であることさえ維持できずに、崩壊していく。

それは、絶望だろうか。それとも、解放だろうか。


ノイズは、もう、耳鳴りのように、四人の聴覚を支配していた。

彼らは、崩れゆく世界の真ん中で、ただ、立っていた。

次に来るのが、完全な光なのか、あるいは、絶対的な闇なのかも知らずに、その瞬間を、待っていた。

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