第二章

第27話 妖怪

「お願いしたき儀がございます」

 

 次は妖怪か。剥げた爺だ。


「先の神の討伐見事であらせられました。その力我らもお借りしたく、」

「世辞はいい。要件はなんだ」

「はっ。あの猛き神を滅した貴方様方に倒してほしき鬼が居るのです」

「ほう。それで」

「我々が差し出せるのは、これこの通り、神の肉でございます」


「ギャアアアア!!! 本物ですよ大餓サマァ!」


「はい。紛れもなく神々の肉片。お目が高いですな」

「残念だがそれは交渉材料にならん」

「なにか問題でも?」

「不味い。美味しくないのだそれは」

「散々苦労してこのような駄目肉を食わされた私達に当て付けるとは! 不敬極まるぞ!」

「神の血肉を駄目肉を呼ばわりとは・・・! 口が過ぎるようですな!」


 ふむ。見た目に反して腹芸は不得意か。


「重ねるが神の血肉は俺達鬼の交渉材料になりえない。俺達が望むのは人の血肉。それも捧げられたものではない。鬼を討つほどの胆力を備えた極上の得物だ」

「先の戦いではそれが添えられたと?」

「そうだ。俺を討てるだけの胆力を備えた人間。先の戦いはそれ自体が神頼みならぬ鬼頼みだ。神を討ってくれとな」

「それに貴方は応えたと」

「最高の時間と味を得た。釣りが出るほどにな」


「人、それも鬼を討つほどの逸材でございますか。ならばその者に頼んだ方が早い」

「そうなるな。俺を討てるならばその者に。討てなければ俺がその内容に応じて応えよう。それ以外では交渉にならん。連れてくるか用意するか。そもそもが鬼を討つのに鬼を頼るのが筋違いではないか?」

「わかっております。しかし件の鬼は強力。武芸者一人二人では足りませぬ。この神の血肉を持ち出した意味がお分かりか」


「・・・神の血肉は妖怪にとっての何なのだ? それは交渉材料足り得るのか」

「勿論でございます。妖怪にとって神の血肉は劇薬。食らえば自身の消失と共に神の力を得られまする」

「ならば自分で食うのもありなのではないか?」

「それこそ鬼となりて悪鬼羅刹となりまする。新たな鬼が生まれるようなもの。本末転倒にござりまする」

「ギャアアアア! なんと情けない! 鬼となりて鬼を討とうとは思わないのですか! その手段がその手にあるというのに!」

「・・・我等妖怪は世に仇成す存在ではありますまい。ただ自然に生くるのみ。人や鬼のように過ぎた望みは持たないので御座いますよ。力を持てば引き返せませぬ」


 妖怪か。食いでは無いが興味がわいた。

 どうするか。

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