第14話 踊り食い

「ギャアアアア!!!」

 

 この喚きは喚きのものではない。喚きが起こしているものだ。

 先の水牢で首だけ出していた人間だ。それを喚きが鬼包丁で腕を切り落とす。

 絶望で味が変わるのかの試しだがどうなるか。


「見ているか人間! お前の腕を生きたまま食ろうてやるぞ! 絶望に酔いしれるがいい! ギャアアアア!!!」


 人間の腕を食らった喚きが喚く。

 腕を吐き出している。何があった。


「大餓サマ。これ駄目です。絶望したら食えたものではありません」

 まさかの味が変わったのか!?


 俺もその腕に食いついてみる。

 流石に俺は喚きはしないがその気持ちはわかる。

 硬いわけではない。食べることを本能が拒否している。


 これは味ではない。俺が今齧っているのは人間の体ではない。

 人間の魂だ。

 これを噛み砕くことはその人間の魂を取り込むことになる。

 これは食事ではない。


 俺は即座にこの腕の持ち主の頭を飛ばす。

 人間の魂が抜けていく。

 だが俺の食らったままの腕に繋がれて天には昇れない。

 俺が腕を吐き出すと完全に魂が消える。


 ・・・もし俺が人間の魂を噛み砕き飲み込んでいたらどうなっていた?

 

 俺はもう一度吐き出した腕を食らう。

 問題ない。ただの人間の腕だ。

「大餓サマ。それを食べたのですか!?」

「人間で遊ぶなという事だ。次は息の根を止めてから食らえ。踊り食いはするな」

 俺が先の絶望した人間を食うように促すと嫌々ながらそれを口にする喚き。

 だが俺の言葉が正しいと知るといなや態度が反転だ。

 これでこいつが生きたまま人間を調理などという事も無くなるだろう。


 ーーー


 だが一つ引っ掛かる。メタ的に言えば「第6話の美味」だ。

 美味は生きた人間。つまり人間の魂を食っていなかったか?

 あのえづき方といい、赤い角と言い、人間を食ってなる状態ではない。


 人間ごはんの質は変わらない。

 美味が目指す人間食材は人間の魂か。

 それを鬼の角に昇華する。

 それこそが俺に食わせたい最高の人間おかずか。


「美味は生きた人間を食った事があるか?」

「あーし? 今食べてるじゃない」

 伝わっていないな。

 美味にとって死んでいる人間は生きているのか?

 その後も旨く伝わらない。

 美味にとって生きてる人間というのは食える人間という事だけはわかった。

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