"もしも"のはなし
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第1話
もし自分がお金持ちだったら、
もし美人双子姉妹だったら、
もし誰からもモテる人望の厚い人間だったら、
もし空が飛べるなら、
など人間は"もしも"の話をするのが好きだ。
かくいう私も"もしも"を考えて退屈な日常を過ごす毎日。
もし、私が総理大臣になったら、きっと国が崩壊してしまうだろう。
なんて、卑屈な考えに繋がることもある。
「皆さん、定時ですよ」
空想しながらタイピングをしていると毎日必ず定時をお知らせしてくれる笹井部長が今日も安定の定時をお知らせしてくれた。
この会社はノー残業を目指しているらしく、定時になると従業員全員がタイムカードを打刻しに行く。
もちろん、私も。
「さ、ここからが本番だよ」
私の斜め向かいに座る先輩、こーもとさんが死んだ目をして言葉を発した。
そう、ここからが本番なのだ。
タイムカードを打刻した従業員の8割が各自席に戻り、先程と同じ作業に手を付ける。
1割は仮眠室、もう1割は帰宅組だ。
何がノー残業だ。ふざけんな。
毎日、サービス残業三昧だ。
もし、私がドラマや漫画にいるような主人公気質だったら、笹井部長をぶん殴っていただろう。
良かった、主人公気質じゃなくて。
「朝井、変なこと考えず手を動かしてね」
こーもとさんは私の考えを見抜いている。
小さく返事をして心を無に、目の前の仕事を進めた。
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