第11話「食うもんねぇ!タバコもねぇ!愛と煙とカップ麺」




「……ベス、小銭ある?」


開口一番がこれである。


新生活スタート☆……のはずが、我が家の冷蔵庫は風の谷。

気づけばトゥレット男子・猫さんは、仕事を辞めて転職中。


理由?

「ベスを幸せにするため、もっと良い職場に移るぞ〜!」

って、少年マンガの主人公みたいな熱いノリで会社を辞めたのだ。


結果──


タバコがない(猫さん的に超大問題)

食べ物がない(私的にも大問題)

愛はある(が、焼け石に水)


しかも転職先のIT企業では、まさかのパニック発動。


「電車……乗れねえ……無理……息できん……」


朝起きてもソファで虚空を見つめる猫さん。

かたや私は、求人情報のフリーペーパーをかき集めて、メガネくいっとしながら


「猫さん!今週の狙い目はこの事務職!あと、これ、寮つき!寮!飯付き!」


「男が寮に入ったら一緒に住めねーだろ!」


「だよね!」


なんかもう、バカップルのノリで人生設計してた気がする。


それでも、私はこの時期の猫さんが、ちょっと好きだった。

不器用で、でも真剣で、

「俺、病気治して、ベスとちゃんと暮らしたい」って言ってた姿は、

本当に、まっすぐだった。


ちなみにおばあちゃんは、神。

カップ麺、缶詰、味噌汁、レトルトを段ボールいっぱいに送ってくれて、

田舎の神(ばあちゃん)からの救援物資で何とか命を繋いだ。


「俺、ばあちゃんに足向けて寝れねぇ……」


と神妙な顔で味噌汁をすする猫さん。


私の心の中では、そのセリフでちょっとだけ惚れ直した。

たまにはこんなサバイバル新婚生活(仮)も、悪くないかもね♡

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