ファックスの終わり——

 あの日、人類は思い知らされた。

 この宇宙の広大さを。

〈あの者たち〉にずっと見張られていたという、真実を。


 二十一世紀の幕が開けたその年。

 世界十二の都市の上空に、突如出現した巨大な影。

 その薄灰色の潰れたボールのような物体は、一目で地球外の存在だと理解できるものだった。

 いわゆる地球外生命とのファーストコンタクトが起きているのだと、誰の目にも明らかだった。


 突然の宇宙船団の飛来というシチュエーション。

 冷静に考えてみれば、それはSFの「ファーストコンタクト」のステレオタイプに、いささか迎合しているきらいがあった。

 しかし今になって考えてみれば、それも〈あの者たち〉が地球人類を研究し尽くしていたことの傍証だったのだろう。


 いずれにせよ〈あの者たち〉は、遠い宇宙から地球へと飛来すると、すぐに各地の言語で呼びかけてきた。

 具体的には、テレビ放送の電波がジャックされたり、個人の携帯電話にテキストメッセージが届いたりした。


 そして、〈あの者たち〉はある一人の人物を宇宙船内に招待すると告げた。

 地球人類の代表者として。




 およそ四半世紀が経過した現在では、当時の記録で公になっているものも多い。

 特に、代表として選ばれた人物がのちに出版した回顧録では、船内の様子が克明に記述されている。

 曰く、宇宙人はタコ型やリトルグレイ型ではなく、悪魔のような見た目でもなかったらしい。

 コミュニケーションに関しても、どうやら一種の翻訳装置が船内に用意されていたらしく、地球人類の代表者は普通に声を出して会話をしたのだという。


 そこで〈あの者たち〉は招いた代表者に対し、地球来訪の目的と地球人類に対する一つの禁止事項を提示した。

 逆にいうと、〈あの者たち〉はそれ以外には何の要求もせず、何の指図もしなかった。

 現在に至るまで、〈あの者たち〉の十二隻の宇宙船は空に浮かんだまま、地上に攻撃を加えてくるようなこともない。




〈あの者たち〉の地球来訪の目的とは、地球の文明水準を向上させることだった。


 そのために〈あの者たち〉が地球人類に提示した、たった一つの禁止事項。


 ——それは、紙のファックスを使うこと。

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