君の初デート、俺が代行します 〜訓練のはずが、いつの間にかヒロイン全員の好感度がカンストしてた件〜

瓜生史郎

第1話 指名、俺が? ちょっと待って、話が違う!

「……え? 俺が、指名された?」


 放課後の空き教室。俺、一ノ瀬誠司いちのせせいじは、手に持ったプリントを凝視しながら固まっていた。

 なんていうか、手榴弾でも渡された気分だ。もちろん経験はないけど。


「うんうん、その反応、最高! ザ・平凡! ザ・安心感! こういう男子を待ってたのよ〜」


 テンションMAXなマリ先生こと、椎名真理子しいなまりこが、白衣をバサバサ揺らして目の前で笑ってる。相変わらずノリが軽い。


「ちょ、待ってください先生。俺、そんな……指名されるようなタイプじゃないっすよ。地味だし、空気だし」

「ちがーう! その空気感こそがいいのよ! あんた、去年の生活指導アンケートで“もっとも安心して隣を歩ける男子”第一位だったのよ?」

「それ、褒められてる感じしないんですけど……」

「安心感ってのはね、今の世の中じゃ最高のステータスなの!」


 そう言ってマリ先生が貼り出したプリントには、でかでかとこう書かれていた。


『LPS(Love Practice Service)制度に関する特別通達』


 ……そう。LPS(Love Practice Service)。聞いたことはある。いや、誰でも知ってる。


 それは、女子による恋愛リードをサポートする、政府公認の“模擬デート”制度。


 この世界では、男子の貞操がとにかく重い。っていうか、ガラス細工並みに扱われる。男子は精神的にも社会的にも「守られるべき存在」っていう共通認識があって、女の子のほうがアプローチするときは“絶対に傷つけない”手順を学ばなきゃいけない。


 でもな……理想と現実ってやつは、いつだって噛み合わない。


 過去にはいろんな事件が起きたって聞いた。

 

 「男子の手をつい握っちゃってパニックになられた」とか、「目を見て話したら怖がられた」とか、「勢いで告白したら、泣かれて逃げられた」とか。

 しかも、最悪のケースでは――“痴女事件”なんて名前がつくほどの大騒動もあった。


 例えば、ある日突然、校舎裏で男子を見て興奮した女子が我慢できずに襲ってしまい、そのまま精神的ショックで長期入院。親が激怒して学校と自治体に抗議、SNSで炎上し、結果的にその学園は廃校に追い込まれたらしい。

 

 それを受けて政府は考えた。「もう恋愛も訓練しよう」と。で、できたのが――Love Practice Service、略してLPS。


 これは、恋愛経験が少ない女子が、安全に男子との距離感を学ぶための模擬デート制度で、男子側は“絶対に調子に乗らず、安心して任せられる人材”であることが条件。

 

 つまり……俺みたいな地味男子に白羽の矢が立つ、ってわけだ。


「この国ではね、女子の貞操観念が崩壊してるって思われがちだけど、むしろ逆なのよ。真面目すぎて、好きって言うだけでもう動悸で倒れそうな子が多いの」

「はぁ……」

「でも欲望はある! 理性と欲望が喧嘩してるのよ! それでバランス崩すと、暴走しちゃう子も出る。恋が分からないからって、勢いで押し倒しちゃったら大事件なの」

「いや、それ完全にアウトじゃ……」

「だから模擬デートで練習するの。で、あんたみたいな安心男子が、その導き手ってわけ」

「いや、俺は調子に乗らないんじゃなくて、モテないだけで……」

「だからいいの! これが調子に乗られるタイプだと、女子が萎縮しちゃってダメなの。安心と中立が命」


 マリ先生がニッコニコで俺に書類を差し出してくる。


「はい、てことでー、記念すべき第一号」


 A4用紙に書かれた、女の子のプロフィール。


芹沢由依せりざわゆい

「……旧家の、才女……?」

「そう、芹沢家のお嬢様。つい最近まで男子との接触禁止だった旧家出身。生まれてからずっと“恋愛=不純”って教育受けてきた子。だからいざ恋していいって言われても、どうしたらいいかわからないらしいの」

「それって、俺が教えるようなレベルじゃ――」

「じゃあ、放っておく? このままだと、由依ちゃんが“正しい距離感”も知らずに、男子を凝視してパニック起こさせて、泣かせて……また痴女事件起きたらどうする?」

「なんで俺のせいになるんですか!?」

「社会的に“男子が協力しなかった”ってことで、ネットで叩かれるわよ? しかも顔写真つきで」

「いやもう、それ脅迫ですよね!? 法的にどうなんですか!?」

「お願い! 国の未来のために!」


 そう言ってマリ先生が頭を下げた。

 

 その後ろのホワイトボードには“断るなら即退学”の文字が……見なかったことにしよう。


「……わかりましたよ。やります。俺でよければ」


 渋々ながら、俺は用紙を手に取る。


 本当に俺なんかが練習相手で良いんだろうか?



 


 家に帰ると、炊きたてのご飯の匂いと共に、異様な空気が漂っていた。


「誠司、LPSに選ばれたってほんと?」


 玄関を開けるなり、満面の笑みでお赤飯を差し出してきたのは、俺の母親である一ノ瀬千鶴いちのせちづる


 父さんは俺が物心つく前に事故で亡くなって、それ以来、母さんが必死に働きながら俺たちを育ててくれた。強くて優しい、尊敬できる母親だ。


「ちょ、なんでお赤飯!?」

「だってめでたいじゃない。男子として、国に選ばれたのよ? 誇りよ誠司!」

「いや、俺は“安心感ランキング一位”で選ばれただけで……」

「そういうのが大事なの。イケメンは淘汰される時代なのよ」


 そう断言する母さんの横では、俺より2つ年下の妹、一ノ瀬花林いちのせかりんが興奮気味に頬を赤らめていた。


 金色のウルフカットで如何にもパリピって感じの見た目だ。


「お兄ちゃんすごい! LPSって、女の子との模擬デートするやつでしょ? ねぇねぇ、どんな子なの? 可愛い? 背は? 性格は? 今日からイメトレする?」

「ちょ、落ち着け花林。質問多い、後、味噌汁こぼれてる」


 こうして喜んでくれるのはありがたい……んだけど、さすがに情報が出回るの早すぎでは?


 夕食中もLPSの話題が尽きず、結局、ご飯の味はまったくしなかった。


 そしてご飯を食べ終え、部屋に戻ってようやく一息つくと、渡された用紙を机に広げて、俺は芹沢由依のプロフィールに目を通す。


「銀髪、長身、成績優秀、品行方正……そして旧家育ち」


 まるで別世界の人間じゃないか……。俺みたいな地味人間とは大違いだ……。


「お兄ちゃーん、入るよー」


 花林がノックもせずにドアを開け、当たり前のように俺の背後から覗き込む。


「なになに? プロフィール見せて! ……わっ、旧家のお嬢様!? やば、テンション上がる!」

「え、そんなに?」

「旧家だよ? 一子相伝の恋愛観とか、古文で書かれた恋文とか、マナーで“壁ドン禁止”とかあるやつ!」

「いや、何その偏見?」

「頑張ってね、お兄ちゃんの妹として誇らしいよ!」


 ぱたん、とドアを閉めて去っていく花林の後ろ姿は、なぜか俺より自信に満ちていた。


 ……これ、ほんとに俺に務まるのだろうか……?



——— ——— ——— ———


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