第6話 ワタルの決意

 ナナの喫茶店を出た帰り道、ワタルはチラシをもう一度、鞄から取り出した。

「精神障害者の声を、政策に生かすための会合」——その言葉が、紙面の中央に太字で書かれていた。

 夕暮れの風が、少し冷たかった。街路樹の葉が揺れ、どこか遠くで犬の鳴き声が聞こえた。

 ワタルは、立ち止まった。


 彼の中で、何かが静かに動き始めていた。

 ナナの言葉が、心に残っていた。

 「良いんじゃない。——あなたは、どう思ってるの?」

 その問いは、ワタルの中に沈んでいた思いを、そっと掘り起こした。


 ——自分の声は、誰かに届くだろうか。

 ——自分の痛みは、社会のどこかに、意味を持つだろうか。

 幻聴に怯え、言葉に詰まりながらも、文章を書き続けてきた日々。それは、誰かに届くことを願っていたからだった。


 「……行こう」

 ワタルは、誰に言うでもなく、呟いた。


 その声は、小さかったけれど、確かだった。

 彼は、チラシを丁寧に折りたたみ、鞄にしまった。


 その瞬間、彼の背筋は、少しだけ伸びていた。

 それは、誰かに認められる為


 その頃、サモンは、自分の家で、生き物と戯れていた。


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