魔術判例百選

孤室猫(こしつねこ)

第000選 執筆依頼、届く

 この世界には、魔術によって起こる争いを、法によってさばく者たちがいる。


 魔術法務士。


 魔力契約、召喚履行、結界境界、状態異常による責任能力の有無……


 魔法が関与する全てのトラブルは、解釈と手続きによって処理されてきた。


 それがこの世界の“司法”である。


 そして本作の語り手は、とある法務士事務所に籍を置く、居候魔術法務士。通称イソ魔。


 対する所長は、渋いが面倒ごとが嫌いなベテラン――通称ボス魔。


 このふたりが、王都記録局からのとある依頼をきっかけに、百の事件を編纂する物語が、いま始まる。



「ボス魔、封書です。差出人は……王都法務院、だそうです」


「またなんかやらかしたか我々。心当たりは──ある」


「“魔術判例百選 実務解説付”の編纂依頼です。“一部執筆協力をお願いしたく──”」


「へえ。ちょっとは名が売れてきたかな」


「ってとこに二重線引かれて、“全件貴所に一任”って上から書いてあります」


「……全件?」


「百選の、百件。うちで全部書けって」


「法務院、ほんとに我々しかいなかったのか?」



---


 このたび当院では、現代魔術社会における実務の到達点を後世に残すべく、『魔術判例百選(実務解説付)』の刊行を企画しております。


 魔術と法が交錯する社会課題――


 召喚契約の不履行、魔力痕の証拠能力、結界の不法占有、さらには死者蘇生の共有問題に至るまで、実務家の視点から整理された知見が今、求められております。

                

 つきましては、貴所に本判例集の全件の執筆を一任します。


 締切は西暦2025年8月29日(金)です。


---


「7月10日から……50日で、100話」


「1日2件……」


「休みは?」


「ないな」


「もたないですよこれ」


「だが名前は載る。“王都公式・判例百選 寄稿”──名刺に書けるぞ」


「うっ……キャリアにはなる……」


「やろう」


「はい……」



 魔術法務士――


 それは、魔術と訴訟と契約が交差するこの時代の、知の最前線。


 “ボス魔”と、“イソ魔”が、いつも王都の片隅で悪戦苦闘していた。


 だが、この夏は少しだけ違う。


 百の事件、百の判例、百の語り口。


 地獄の編纂作業が、今始まる。



西暦2025年7月10日――

  『魔術判例百選』連載、ここに開廷。


---


※本作はフィクションです。登場する法律・種族・制度等は現実とは無関係です。

 魔術トラブルでお困りの方は、現実世界の弁護士など専門家にご相談ください。


※連載が止まった場合、二人が倒れた可能性があります。静かにお茶でも飲みながら、お待ちください。

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