第7話:孤独の味と、家族の温度
「いじめ、ですか?」
執事長のハウザーが低く声を落とした。
その日は春祭りの準備で屋敷が慌ただしくなる中、庭先で一人泣いていた子供が使用人に発見され、事情を聞いたのだという。
「ラグ様のご友人方……ユエル、トルク、サンティの三名が、ほかの子供達に“階級をわきまえろ”などと暴言を吐いていたようで……。」
俺の名がそこで出てくるのが、何よりも気が重かった。
最近、屋敷で“ある噂”が広まっている。
——“ラグ様に逆らうと消される”。
噂の出所は誰かはわからない。でも、広まったのは確かだった。
実際、以前屋敷に侵入した空き巣が“消えた”とされる事件、そして秘密裏に行われた罪人の“処理”。その両方の噂が、子供たちの間で“実話”として認識されていたのだ。
それが原因か、あるいは言い訳か。
「だって、ラグ様に刃向かうようなやつは、消されても文句言えないって。」
「ラグ様が怒ったら……最後だよ。」
「だから、ちょっと言ってやっただけ。ね? 悪くないだろ?」
問い詰められたユエルたちは、まるで俺が背後にいる“絶対者”であるかのような言い草をした。
——ああ、そうか。
この子たち、俺の“友達”じゃなかったんだ。
彼らにとって、俺は“消すかもしれない相手”。つまり、上司とか、監督者とか、あるいは——「部下が頭を下げる対象」だった。
俺が何を考えても、何を言っても。
その発言は“命令”として受け取られる。怒れば震えられ、笑えば媚びられる。
そして、俺の“スキル”はそれをさらに裏付ける最強の抑止力として機能していた。
「ラグ様は……怖い。」
「でも、逆らったら消される。」
そう囁かれるたびに、胸の奥が冷たくなる。
あの笑顔も、あの木笛も、添い寝も、ぜんぶ——
「計算された忠誠だったのか?」
ふと、足が止まる。
屋敷の裏庭、誰も来ない小さな温室。母が育てていた花たちが咲いていた。
しゃがみ込んで、思わず地面に拳をつく。
「……俺は、人間関係を掃除しすぎたのかもしれない。」
“不要なものを排除する”——それは確かに効率的で、平和を保つ手段だ。
けど、その中に“間違い”や“未熟さ”や“本音のぶつかり合い”を許さなければ、残るのは誰も信じられない世界だった。
「ラグ……。」
ふと、背後から柔らかな声が聞こえる。
振り返ると、母・シルヴィアがいた。
「ごめんなさいね。あなたに、余計な力を与えてしまったような気がして。」
彼女はゆっくりと、俺を抱きしめた。
温かかった。とても、温かかった。
「大丈夫よ、ラグ。あなたがどうあっても、私たちはあなたの家族だから。力を持っていなくても、誰かに嫌われても、ラグは、私の息子よ。」
「……ほんと?」
「ええ、ほんと。」
その言葉が、胸の奥まで沁みた。
世界がどんなに冷たくなっても、この両親だけは、本物の“味方”でいてくれる。
ラグ・ディースフェルト、1歳と10ヶ月。信じていたものが崩れ去った日、けれどもたった一つ、本物の“温もり”に救われた春の夕暮れだった。
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