待つしか

 私は冒険者だ。

 誰にも相談できないから、一人で突き進む冒険者。

 佳奈の奥地に進む冒険者。

 踏み越える境界線。

 その一歩となるのが、担任の杉本先生に聞くことだ。

 私は休日。

 佳奈のいない時間帯。

 時間は何時間でもある。

 でも、行動しないとただの空白になってしまう、気がした。

 私今緊張してる。

 なにが起きるのか検討もつかないから。

 心の準備はしてきたつもりだが、やはり怖い。

 でも、私は進むのだ。

 なぜなら、冒険者なのだから。

 受話器を取ったとき、剣を抜くような気持ちになった。

「もしもし。」 

「杉本先生に変わっていただけますか?」

 数分して、杉本先生の声がした。

「もしもし。」

「どうかされました?」

 私は話す。

 あの事を。

「……実は、昨日、佳奈が傘を持って、学校に行ったのに、びしょ濡れで、帰ってきまして。」

「なので、学校での佳奈の様子を知りたいと、思って電話をしました。」

「最近、佳奈はどうですか?」

 杉本先生はこう言った。

「あ~、佳奈さんの様子、ですか。」

「正直なところ最近は、目が届いてなかったかもしれませんね……すみません。」

「行事の準備がありまして。」

「今日見てみて、何かあれば連絡する、といった方向でいい、ですか?」

 私は同意して、連絡を待つことにした。

 犯罪に巻き込まれていたらどうしよう。

 自分の顔を一回叩く。

 自分の気持ちに歯止めをきかせるために。

 親が信じれなくてどうする。

 とにかく、行動はした。

 あとは、報告を待つしかないのだ。

 今日、佳奈が帰ってきたら、抱き締めてやろう。

 久しぶりに、抱き締めてやろう。

 それだけが、愛の証明だと思うから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る