第51話 祖父との望まぬ対談
フィーファは長い廊下を歩く。
歩きなれた、見飽きた廊下。
生まれた頃から今に至るまで変わる事のない普遍のモノ。
人によっては変わらない物に美徳を感じるものなのだろう。
その感性を否定する気は毛頭ない。
ただこの廊下…いや、この眺めに対しては論外だ。
結局は振り出し、またこの場所に戻って来てしまった。
レスティーナ城
フィーファが生まれ育った故郷。
全てが行き届いた優美な内装、荘厳で尊大な威厳に満ち溢れた祖父の城。
フィーファはそんな祖父の後を親鳥の後を追う雛鳥のように追従し同行する。
ガノッサはどうしてるだろうか?
レイラは私に愛想をつかしたろうか?
シェインは大丈夫だろうか?
彼は私の事を軽蔑しただろうか?
確かめる術はない、当然だ、私は彼らを拒絶した。酷い言葉を投げかけた、私を助け出そうなどとは考えないように。
シェインはあのまま戦っていたら間違いなく祖父に殺されていた。
祖父に迷い躊躇いは一切なかった。
だからああする以外他に方法はなかった。
シェインを殺し、ガノッサとレイラも祖父の手によってシェインの後を追うことになるだろう事は想像に難しくない。
今は会えなくても生きていればいつかは皆に再開出来る。
1年、2年…もしかしたら10年後でも生きてる限りいつかは再開する事は出来る。
どれだけ時間がかかっても生きてさえいればまた会える。
死んでしまえばそこで終わりだ。
皆に軽蔑されてもいい、嫌われてもいい
どんな形でも皆に生きていて欲しかった。
「ついたぞフィーファよ、ここがお前の新しい部屋だ」
足を止めた祖父は私の新しい部屋という事になってる部屋のドアの前で私に振り返りそう述べた。
「今までは職務に追われお前との時間を作ってやれなかった、そのせいでお前には寂しい思いをさせたようだな、案ずるな、ワシも反省した。これからは出来るだけお前との時間を作るように善処していくつもりだ。」
「ありがとうございます」
「うむ、夕食は共に取ろう、時間になれば使用人を向かわせる、それまでは大人しく勉学に励んでおくように。」
「はい、わかりました」
「ふむ、随分と聞き分けが良くなったようでワシは嬉しいぞフィーファ」
「孫娘として当然の事です、お祖父様」
「うむ、では励めよ」
そう言って祖父は何処かに歩き去っていった。
無感動のままフィーファは自分の部屋と充てがわれた部屋へと入る。
中は掃除の行き届いた綺麗な内装。
シミ、ゴミ等あるはずもなく整理が隅々まで行き届いている。
祖父が使用人に毎日掃除させているのだろう、後で礼をしておかなければ。
ベットに腰かけ部屋を改めて見回す。
ベットと机、クローゼット、本棚には無数の本が並べられている。
心理学や論理学などの本もおいてある、人との関わりを取り上げておいて心理学とか祖父にしては皮肉がきいている。
それとも人とのコミュニケーションを本だけで学べとでも言うつもりか、人付き合いを舐め過ぎだ。
「昔はあそこまで頑固じゃなかった。」
昔の祖父は他人をあそこまで無下にはしていなかった……と思う。
国とは民あっての物、民無くして国は成り立たない。
一握りの天才がなせる事などたかが知れている、人は群れるために言葉を使う生き物だ。
そうして社会は成り立ち形成されていく。
祖父は昔、私にそう語った。
しかし今の祖父は昔の自分を否定するような事ばかりを言う。
無能であれば切り捨て必要ないなら踏み躙る、あれでは暴君だ。
フィーファははぁっとため息を吐きベットに上体を投げ出した。
疲れた、少し眠ろう、目が覚めたら明日からの事に付いて色々考えればいい。
遠い…とても遠い夢の記憶
記憶の内容は断定できない
もしかしたら昔読んだ本にそんな内容があっただけかも知れない
何処かで伝え聞いた話かもしれない
自分の事かも知れないし、他人の事かも知れない
その夢の記憶には女がいた
長い金の髪を持つ美しい女だ
女は握り拳を作り何度も何度もそれを振り下ろしていた
手は真っ赤に染まっている
とても痛そうだ
それでも女は辞めない
一心不乱に何かに対して握り拳を振り下ろす
(そんなにすると壊れちゃうよ…?)
女に対して私はそう問いかける
でも聞こえていないのか聞く耳をもたないのか
女は変わらず腕を振り下ろす
何度も
何度も
なんども……
「フ……、!フィ…、フィーァ様…、フィーファ様!!」
「えっ!?」
誰かに呼び起こされて、飛び上がるように上体を起こすと目の前にはメイド服を着込んだ見慣れない女性が立っていた
「えっと…貴方は…?」
「申し遅れました、本日よりフィーファ様の側仕えを申し使っております、レコと申します。」
そう言ってレコと名乗った女は深々と頭を下げた。
「えっと…レコさん、何用でしょうか、」
「はい、国王陛下よりお食事をと…、」
「あぁ…わかりました…。」
そう言えばそんな事を言っていたな、と思い返す
気が重い。
昔の様に祖父と団らんの時間を楽しむ余裕はなさそうだ。
だだっ広い部屋の中に無駄に長い長机がありその両端にフィーファ、そしてその祖父である国王が鎮座している。
テーブルには豪勢な夜食が配膳されているがそれを見てもフィーファは美味しそうだとは毛ほども思わなかった。
きっとここにシェインがいればうまそうだー!って阿呆みたいに喜んでそれをレイラやアルフィダに窘められて拗ねてるだろうなと考えてしまう。
宿屋などで食べる食事はお世辞にも美味しいとは言えなかったが皆と和気あいあいとおしゃべりしながら食べる食事は下品ではあったが楽しかった。
「こうして家族団らん、食事を食べるのも久しぶりだな、フィーファよ?」
「はい、そうですね、」
「それで?家出の末の旅はお前に何かを与えてくれたのか?」
「…、」
「ふっ、当然だ、愚者と共にいた所でお前がソレ等から何かを学ぶ事などなかろうよ、」
「お言葉ですがお祖父様、彼等はその日を必死に生きています、人にはその人にしかない人生があり、その人にしか体験出来ないモノがあります、そういったモノを色々な人達と関わり、交流する事で得られると私は思っています。他者を愚者と謗り見下していては得られないモノがあると私は思っています。」
「ほぉ、つまり何か?お前はワシに意見していると…そういう事なのかな?」
「そう受け取られたならそれでかまいません」
「愚かな、他者とは利用するものだ、その者の価値があれば利用し、無ければ捨て置く。
その程度の価値しかない。他人から学ぶ?馬鹿馬鹿しい、学ぶ必要などない程自身を研ぎ澄ませば良いだけの事だ。
そうしてワシはここに登りつめた、完璧であれば他人など必要ないのだ」
「お祖父様…」
これが…こんなモノが尊敬したいた者の正体だったのか…?
ではあの時言った言葉はなんだったのか…
「じゃ、お祖父様が私に言ってくれた言葉は何だったんですか!?国あっての民、国は民なくして存続出来ない、そういったのはお祖父様じゃないですか!」
「何を言っている、当たり前だろう、そんな事」
「え?」
「言ったハズだぞ?いかな天才といえど出来る事には限界がある。
人である以上は手は2つしかないし、指は10本だ。
神より与えられた人間の体で出来る事は知れている…これは普遍で当たり前、人は神ではないのだ。
当然限界はある。
だからこそ他者を利用するのだ、国を繁栄に導くには民が必要だ。
税の徴収は誰からする?当然民だ、その民が枯渇すれば税の徴収どころではない、だからこそ、民には希望、活力となる希望が必要なのだ。
民は国を利用し、国は民を利用する、そうやってこの国は栄えた。
無論この土地に根ざした膨大なマナの恩恵は凄まじい、先代がこの土地を選んだのは正解だ、流石はレスティーナの血を持つ者と言ったところか」
「………、はは……は…」
私は祖父の言葉の上澄み、表面的な部分しか理解していなかった、祖父がどうしてそのような言葉を発したのかその意味を理解していなかった。
何故か、幼かったから、愚かだったから。
勿論それもあるだろう、でも1番大きいのは
価値観だ。
私と祖父では価値観が、考え方が、捉え方が全く違う。
血を分けた家族でも考え方にここまで齟齬があれば分かり合うなんて無理だ…、そうか…。
だからだ…
「だからなんだ…、そうだったんだ、」
「?…どうしたフィーファ?」
「お祖父様がそんなんだからお母様はここから逃げだしたんだ!!」
テーブルを強く叩き立ち上がりながらフィーファは祖父に対して怒鳴りつけた。
これ迄の鬱憤を全て吐き出すように
決壊した土砂のように
「貴方がそんなんだから私はお母様とお父様を失うことになったんだ!!」
はぁはぁと息を切らしながら自分を睨みつける孫娘にたいして国王は驚く程感情に揺らぎが無かった。
まるでフィーファの慟哭など鳥のさえずり程度にしか思っていないとでも言う様に。
「なるほど、確かにな、アレがいなくなったのはワシに責任がある事は認めよう、だからアレにした失敗を繰り返さぬ様、最善をつくして来たつもりでいたがお前もアレの娘なら似るのもまた自然か…」
「何をいって……」
「良いだろう、アレに対してお前に隠していたのが失敗だったのならお前にアレの事を教えてやろう。ワシとしてはお前が傷付かずにいるなら知らない方が良いと判断したのだがな」
「アレって…なんの事ですか?」
「とぼけるな、お前の母
エルミナ·レスティーナの事だ」
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