第32話 アレクの決断
マグラーナ王国城内にてレイラとアルフィダはとある人物と話こんでいた。
「しかし、大きくなったな、レイラ、見違えたぞ。」
「ありがとうございます義御父様。」
「しかし、まさか本当に彼女を、フィーファ姫をこの国につれて来てしまうとはな、まったく予想が外れたよ。」
「義御父様は嬉しくないのですか?王の密命を果たせたのですよ?」
「そんなことはどうでも良いのだ、正直私はお前がこの国の外で幸せに暮らしているならそれで良かったのだ」
「義御父様……」
「この国はもうじき終わる、それが明日か一年後かは解らぬ、しかしこの国は崩壊の運命からは逃れられぬだろう、施設の子供達も成長し、各々が道に旅立った、私に後顧の憂いはない、あとは祖国であるこの国に骨を埋めれば私の願いは叶ったのだ。」
「私は義御父様に生きてほしいです。」
「もう決めた事だ。」
「死ぬことはいつでも出来ますよ、誰かの願いのため生き続ける事のほうが有意義だとは思いませんか?」
「ふん、知ったような事を言うのだな、若造。」
「若輩者なりに得た答えですよ、でも悪くはないと思いませんか?」
「何をしょうというのだ、死に体とはいえ一つの国を相手取れるなどと烏滸がましい事を考えていないだろうな?」
「今はなんとも言えませんね、ですが時が来れば我らに御助力願いたいのです、この国で先代国王の代からマグラーナを支え続けた貴方の力が我らには必要なのです。」
「お願いします、義御父様。」
厳つい顔付きの老人は眼の前にいる若い二人に鋭くも厳しい目を向けていた。
長きにわたりこの国に貢献してきた歴戦の防人たる自分だからこそこの国には既に未来がないことを理解している。
停滞を良しとし、緩やかな崩壊を見送ったのは他でもない自分ならばこの結末も納得できた。
愚王の責任にするのは簡単だ、だがその愚王の愚行を認めたのも間違いなく自分達なのだ。
もとより棒切れを振り回す事にしか才能を見いだせなかった自分は王に口出しなぞ出来る立場ではなかった。
先代国王の人徳、カリスマ性に魅了され彼の力になりたいと振るってきた剣はいつしか錆付きくちかけている。
今やどこの馬の骨とも知れぬ詐欺師紛いの男を勇者と祭り上げ依存しなければならない程この国は落ちぶれた。
アレが人の手からはづれた外道であるとわかっていても…。
だからこそ最後に賭けてみたくなった。
滅びゆくこの国で必死に生にしがみつく孤児達を保の護し孤児院をつくり教会のマネ事をしたのも彼等の様な若者の出現に賭けてみたくなったからだ。
時代を作るのは老人ではない。
若い世代がガムシャラに築く未来にこそ価値がある。
そしてその一人が今日私の力を頼っているのだ。
コレに心を踊らせぬならいつ踊らせるのだと言うのか。
老人は強かに協力を受理した。
一方そんな密約が交わされる城の前で賑やかな集団がいる。
フィーファ達と勇者一行である。
「俺の女になれよ!」
勇者アノスの欲望に塗れた命令はフィーファの耳にそして目から資格情報として彼女の脳、そして精神に作用する。
その結果
「はあぁ〜勇者アノス様〜」
命令された対象は精神をアノスの命令に書き換えられ支配される。
「はっ?おい、フィーファ?」
「なんですか?辺境育ちの田舎者如きが私を名指しで呼ぶなどと度し難いですよ?」
「おっ…お前…」
「気安いですよ?貴方…」
「そうだぞ小僧?俺の女に気安く擦り寄んなよ、殺すぜ?」
アノスの殺すぜ発現に呼応するようにフィーファは魔力を可視化させシェインに殺気を向ける。
またアノスの取り巻きである女二人も殺気の籠もった目をシェインに向ける。
シェインはこの状況に歯を食いしばるしかなくアノスを睨みつける。
「おいおい、なんだよその目は、勇者相手に喧嘩売ってんのか?ああ?」
一触即発の空気を打ち破ったのはいがいにも勇者の兄、アレクだった。
「アノス、彼はまだ子供だ、目上の人との接し方が不得手なんだろう…、多目に見てくれないか?」
「あぁ?誰に指図してんだよ?糞兄貴さんがよぉー?」
そこに便乗するかのように取り巻き女の1人がずいっと前にでてアレクに言い放つ。
「アンタさぁ、本当にウザいだけど?これ以上私のアノスの手を煩わせないでくれるかしら?不愉快極まりないわ」
「あぐっ!…アリエス」
アレクがアリエスと呼んだ女から蹴られてうずくまり、苦悶の声をもらす。
しかしアリエスはそんなアレクを心底不快そうに見下すだけでそこに情といったものが無いのはシェインの目から見ても明らかだった。
「ねぇ、もう行こうよアノスぅ、こんなジメジメした所に居たら気分が下がっちゃうわ」
「そうだよ、アノスお兄様、私もアリエス姉様にさんせーい」
「しかたねーな、なら行くか、そーだフィーファちゃんも来いよ、可愛がってやるぜ〜」
「ごめんなさい、勇者さま、私すこし用事があってそれが終わったら絶対に行くから待ってて下さいね♡」
「えぇー仕方ないな、早く来いよ待ってるからな」
そう言って連中は帰って行った。
フィオナは勇者達についていったが最後にシェインの方に向き微笑んだように見えた。
シェイン達はそんな勇者一行を唖然と見送るしかなかったが直ぐにこの場に残ったフィーファの事が気になり話しかける事とした。
「あのぉ~フィーファ…さん?」
「大丈夫ですよ、シェイン、私は私です。」
「えっ?」
「フフ、なかなかおもしろい反応で個人的には大満足ですね。」
「おっおま、洗脳されたんじゃないのか?」
「馬鹿言わないで下さい、あんな方に洗脳されるなど松代までの恥ですよ、許容出来ません」
「じっ、じゃさっきのあれは?」
「勿論お芝居ですけど?まさかここまで見事に騙されてくれるなんて思ってませんでしたよ、フフフ…、
それとシェイン……さっきはゴメンなさい、」
「え?何が?」
「勇者の目を欺くためとはいえ私は貴方に酷い言葉を使った、そのことについて謝らせてください。」
「……、別に気にしてないよ、演技だったんだろ?」
「……はい…ですが……」
実際の所、フィーファは洗脳にも催眠にもかかってなどおらずかかったふりをしたに過ぎない
何故彼女がそんなことをわざわざしたかといえば
「利用出来るとおもったんだろ?」
「気付いていたんですね…」
「まぁな…そうでもなけりゃあんな無防備に勇者の前に立たないだろうしな…」
「はい、正直賭けの部分は大分ありましたが上手く行って良かったです、」
「良かったって、お前、本当に洗脳されてたらどうすんだ、その時点でアウトだったんだぞ?」
「私だって馬鹿じゃありません、確証もないのに賭けに自分自身を投げ捨てるようなマネはしませんよ」
「じゃ、どういう事なんだ?」
「フィオナさんですよ。」
「フィオナ?」
突然フィーファの口から予想外の人物の名が出て来たためシェインは虚をつかれる、オウム返しにフィオナの名前を発するがそこにフィオナっと小さな声で呟く人物がいた。
アレクである。
「ははは、嘘だ、洗脳?催眠?そんなの、皆が、フィオナがそんな物にかかってる訳ない…そんな訳ない、」
「アレク…」
シェインが知るよしもないがアレクを足蹴にしていた女性アリエスは彼の幼馴染で幼いころ結婚の約束をするくらいには思い合っていた間柄だった。
これまでアレクは強靭な精神力で彼らからの罵詈雑言、暴力を耐えてきた。
しかしそれが洗脳されているからと言われ彼のなかでせき止めていた感情の波が溢れだそうとしていた。
「……はい、フィオナさんは貴方の言う通り洗脳になどかかってはいません。」
「は?」
「え?」
フィーファの口からまたとんでもない事が暴露される。
「私が例の賭けに挑む気になったのはフィオナさんがいたからですよ、彼女の存在が私に一つの可能性を見せてくれた」
「どういう事だよ?」
「順を追って説明しますね、まず大前提として勇者アノスが洗脳、催眠に類する能力を持ってるのは確定です、彼の目はそういった事を可能とするいわば洗脳の魔眼とでもいう代物ですよ、シェインも彼の目が怪しく光るのを見てたでしょ?あれが力が発露した証です。」
「フィオナが、フィオナが洗脳にかかってないとはどういうことなのですか?」
アレクからの質問にフィーファは待ってましたといわんばかりに答える
「彼女はハイクラスの白魔法使いですよね?
白魔法使いは自身を守護する結界や陣の形成に突出した才能を持ちます、なかでも彼女はハイクラスの白属性魔法使い、そして彼女のもつ結界魔法強度は他の同属性魔法使いと比べても抜きん出ています。
彼女ほど才能に愛されているなら呪いを跳ね除ける程の協力な結界を生み出せるかもしれない、そう思い、私も同じ様に結界で自身を守護すれば勇者アノスの目の力に対抗出来るのではと考えてのです。
実際彼女は勇者アノスといるときは常に結界を形成していました。
余程勇者アノスに洗脳されたくないのでしようね。」
「そ、そんな…、ならフィオナは何故そのことを俺に話さない、何故何も言わないんだ…」
「それは私には解りません、彼女なりの考えがあるのでしょうとしか、」
「フィオナなりの考え?何なんですかそれは!
あの子が何を考えてるのか俺にはわからない、アノスもフィオナも俺には何も、何も!教えてくださいよ!俺には!俺は!」
「アレクっ!」
許容量以上の情報の波にアレクの精神はついに限界を迎えフィーファにつかみかかる、それを制したのはシェインだった。
「ぁ、…すっすまない…」
「いえ…わたしも…ごめんなさい、つい舞い上がって解説を…、無遠慮でした。」
フィーファも自身の智識が活かせる場面にきて舞い上がっていた事を反省する、シェインに自分が出来る女である所を見せつけたてドヤァと胸を張りたかったが為の行動だったがアレクの憔悴ぷりに配慮が無かったと現実に引き戻される。
「とりあえず、フィーファは勇者ヤローに近づいても怪しまれなくなったのは良いけど、アイツ何するかわからんからフィーファが勇者ヤローに接触するのは最終手段だわな、やっぱ、ここはアレクに動いてほしいんだけど…。」
「そう…だね、きっと俺の方が適役だ、それに俺がやらなくちゃならない事なんだろうな、コレは。」
これまでの温和そうな彼のイメージとはかけ離れた、思い詰めた表情で呟くと決意を新たにした。
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