第52話 赤子の正体
鳥の鳴き声がかすかに聞こえる朝。和夜は目を覚ます。何か夢の中に影弁慶が出たような、良い夢だな、素晴らしいぜ、と思いながら1度だけ目を開けるが直ぐ閉じて幸せの2度寝タイムをしようとする。
「ん?」
視界に居るはずもない人物が入り、寝ぼけながらも上半身だけガバっと起こす。和夜はソファーに寝てしまっており、騎士も寝ていた。といより、和夜が騎士を枕にしていた。騎士の上に和夜が覆い被さる形で寝ていた。枕にしていたというより抱き枕に近いかもしれない。前夜、和夜が騎士に号泣しながら謝り、眠りに付いたので、そのまま2人で寝てしまったようだ。驚き過ぎて叫びそうになるが、今の時間は朝。騎士を起こすのは申し訳ないので心の中で思いっきり叫びんでいる。うえええええええ!?何!?何事ー!?ああ!?謝った後、寝てしまったんだ!?やらかした!やらかした!訴えられたら文句言えない!ごめん!騎士くん!ごめん!と寝起きからパニックである。最悪の目覚めだろう。
「おはよう」
寝たふりをしていた騎士がニコニコと上半身を起こしたまま固まっている和夜に挨拶をする。
「お、は、よう・・・」
やべっ、私がどけないと、と思った和夜は急いでソファーから降りる。もっと寝てても良いのに、と騎士は心の中で思っていた。
「・・・ごめん!」
これだけ言って頭を冷やそうと和夜は洗面所へ向かった。言わなきゃバレないかもとか思ったけど起きたー!?とか思いながら洗面所へダッシュしている。騎士は
「何が!?」
と言って和夜の突然の謝罪に驚くのであった。
この後またまた和夜は騎士に謝ることになるだろう。勿論だが騎士は一斉、気にしていないどころか良いことと思っているので和夜が気にすることはない。そもそも和夜が騎士の膝で膝枕のような形で寝てしまったところを騎士が寝やすいように姿勢を変えたのだから。これは和夜は知らない、騎士だけが知っている。
伸郎、和夜、騎士は不死長老から科学室に来て欲しいと言われたため向かう。イカ天は面白そうだからとこっそり付いて行く。和夜が可愛いと思っている小さいイカの姿でこっそりである。
科学室に入ると奥では南、茅野、メガネが作業をしている。かなり集中しているようだったので声は掛けないでおくことにした。あの時の赤子もおりベビーベットに寝ていた。すやすや気持ちよさそうに寝ている赤子を眺めながら小声で会話をする。
「おっ、元気そうで良かったぜ」
「誰の赤ちゃん?」
「まだ分からないんだ。俺とお父さんが敵を倒した所に居て」
「お父さんじゃねぇ!」
「シッー!声がデカい!」
「ふふふ」
小さいイカから姿を変え、イカ天が登場。和夜からすると急に現れた形である。
「誰かさん達に似ている気がするね~」
「いつから居たの!?」
和夜が驚く。うっかり大きめに声を出してしまったので咄嗟に両手で口を塞ぐ。
「大丈夫じゃよ。その寝床は特殊でな。大きい音は聞こえないように特殊なバリアがついている」
不死長老が笑いながら現れた。隣にユミも居て、微笑んでいる。赤子のベビーベットはユミが作った物で伸郎が大きい声で怒鳴ろうが、和夜が驚いた声を出そうが聞こえない。そこへ、黒葉、強、リゼ、キンバの4人もさり気なく入って来ていた。伸郎達が科学室に入ったので気になって来たのだ。黒葉は後ろから和夜の肩をトントンと軽く叩く。しかし、和夜は気付いておらず反応がない。黒葉は不思議に思ったが迷いなく、いつもの行動を行った。
「和夜ー!」
「ぐへっ」
恒例の黒葉が和夜へ抱きつく行為である。今回は背後からバックハグ攻撃だ。
「肩トントンしたのに何で振り返ってくれないの!?」
「えっ?ああ~ごめん。ボーっとして気付かなかった」
その恒例の光景を見ていた強、リゼ、キンバが羨ましそうに言う。
「本当に大好きなんだなー」
「羨ましいっす」
「良いな~。和夜先輩」
この後は恒例の騎士による和夜を黒葉から剥がすために脇を抱え持ちあげる。そして、お互いの間に軽い稲妻が走る。間に挟まれた者が2人を宥める。このシーンを何回見ただろうか。これからも見るだろう。
「思いの他、人が集まってしまったの・・・」
不死長老が言った。それに対しユミが言う。
「そうですね・・・まぁ、いずれバレることですし・・・」
「それもそうじゃの」
不死長老が伸郎達に話を始めた。関係ない人もいるがついでで聞いて貰った。
「DNA検査をして親が誰か分かったんじゃよ」
「おう、じゃあ親御さんにちゃんと知らせないとな」
「それが親は和夜くんと騎士くんなんじゃよ。DNAで分かっての。確か、えーと・・・」
その場にいた全員が固まり沈黙が流れた。ユミは不死長老が急に沈黙になった理由が分からず、何でここで無言!?と気になっていた。
「えっ?何て?」
和夜が最初に声を出した。聞き間違いであってくれと思っていた。
「ちょっと!いつの間に!?なんで私達に言わないの!」
「びっくりしたよー」
「おめでとう!」
南、茅野、メガネが嬉しそうに次々に言った。
「ちちちちち違うよ!」
和夜が手を振って必死に否定をした。嫌な予感がし、首をブンっと勢いよく騎士の方に向いて確認する。
「楽しみだなぁ・・・」
騎士は幸せな顔をして上を見ていた。
「お前、お父さんお父さん言うと思ったら・・・というか、なぜ、あんな場所に子供を居させてるんだ?」
伸郎に胸倉を掴まれているが全然、気にしていなかった。
「はい、そこ、落ち着いて下さい!明日の方向を見ないで!冷静になって!」
和夜がツッコむ。
「何で・・・」
「和夜姉さん・・・」
「和夜先輩・・・」
和夜が強、リゼ、キンバの方を見る。
「そんな怖い目しないでよ。違う。違うよ?」
恐る恐る近づきながら必死に和夜が弁明する。黒葉は和夜と向かい合い肩を掴み思いっきり揺さぶる。
「何で私に言ってくれないのよー!?病院はどうしたのよー!?」
勢いよく肩を揺さぶるものだから和夜は白目になる。
「俺達にも言って欲しかった・・・」
「何でもっと早く言ってくれないんですか!?」
「水臭いですよ!」
強、リゼ、キンバは軽蔑をしていた訳ではなく言ってくれなかったことを悲しんでいるだけだった。
「だから違うってー!」
和夜が必死に否定する様をイカ天は楽しそうに見ていた。あまり楽しそうな雰囲気でいると和夜に八つ当たりされるぞ。
「落ち着きなさい」
不死長老が優しく言った。全員、黙って不死長老を見る。
「何か誤解しているようじゃが・・・敵が和夜くんと騎士くんの髪の毛を採取して、それを利用して作った子供らしくてな」
「はい。不死長老のおっしゃる通りです。なぜ、それを直ぐに言わないのかが気になりましたが」
「年での。度忘れして思い出すために黙ってしまった。許しておくれ。それに皆が騒ぐから驚いての~」
全員が状況を理解するためにまた固まった。そして、心の中で全員が思った。早く言え。
「私も作ろうかな~。和夜ちゃんと私の」
「絶!対に!止めろよ」
和夜は疲れつつもイカ天に念押しをした。イカ天は博士の研究をよく見ていたので作ろうと思えば作れそうなため怖い。本当に怖い。有言実行しそうで怖い。
敵がどうやって和夜と騎士の髪の毛を採取したのか。本来なら伸郎と騎士のDNAを利用し、強い戦闘員を作る予定だったのだ。計画ではパチンコで座って大当たりに集中している伸郎を狙って後ろを通ったところ、髪の毛1本を上手く採取するつもりだった。伸郎が大当たり中なのを確認し、敵が後ろを通って歩きながら目を伸郎に向けずに手だけを伸ばし髪の毛を取ろうとした。目線を伸郎に向けると振り返ってバレる可能性があったため足がよろけたふりして感覚で手を伸ばし取ったのだ。その時、実は隣に和夜が居たのだ。
「おっ!当たったの?おめでとう!」
「おう!」
和夜は伸郎の隣に軽く上半身を傾けて話し掛ける。それで敵が間違えて和夜の髪の毛1本、取ってしまった。たまたま、その日は和夜の頭の上にアホ毛が生えていたのだ。
「あれ?何か頭が一瞬、痛かったな・・・おっ!私も当たり!」
和夜と違って伸郎は怪しい人が居るとは気づいていたが、ただの変な客だろう位にしか思っていなかった。それに、2人揃って勝って良い気分なため後ろでよろけた男のこと何て、すっかり忘れていた。
騎士の髪の毛を取る時は意外に簡単だった。
「和夜ちゃん、頭に小さい葉っぱが乗ってるよ」
「嘘!?」
「人間に化けているのかな」
騎士は笑った。
「失礼な・・・あっ、騎士くんは花弁が付いてる」
騎士が軽く屈んだところで和夜が騎士の頭に付いた花弁を取る。その時に和夜は軽く焦った。やべっ、間違えて髪の毛2・3本、引っ張って抜いちゃった、バレてるよね、と思っていた。
「・・・ごめん。間違えて髪の毛も引っ張っちゃった」
「ああ、大丈夫だよ」
騎士がまた笑い、和夜は抜いてしまった髪の毛を地面に払い落とす。それを敵が見ていて2人が居なくなったら拾ったのだ。
「へっへっへっ・・・間抜けな奴等だぜ。髪の毛を落とすなんて・・・パーシスさんとテントさんに任務完了の報告をするか」
和夜と違って騎士も怪しい気配はしていたが直ぐに居なくなったことから、あまり気にしていなかった。
赤子の正体が分かって数日が経つ。ある時、リビングで和夜がソファーで腕を組みながら険しい顔で考え事をしていた。
「何かあったの?」
「不死長老に子供の名前を考えて欲しいって言われてたから。考えてた」
「そうなんだ」
騎士は心配していた。果たして和夜が名前を考えたら危ないのではないか。テーブルに1枚の紙があるのに気付く。
「見ても良い?」
「うん。少しでも良いと思ったのはメモしてたんだ。」
そこにはびっしりと候補が書かれていた。
「正直、子供が苦手だけどさ。せっかく生まれた大切な命だからね。名前は全力で考えないとと思って」
騎士が裏をめくる。そこには2つの名前しか書かれていなかった。
「これは・・・」
「裏は私が1番良いかなって思ったのを書いたんだ」
「俺もこれが良いな」
「良いの!?即決だね!?」
「うん。俺もこれが1番良い名前だと思う」
書かれていたのは、純と優。
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