第12話 待望

 待ちに待った和夜の退院日が来た。入院したての時に来てくれたメンバー全員がお祝いしてくれた。めでたいので黒葉行きつけの焼肉屋に行った。騎士と黒葉の間に和夜が座っており、キョロキョロしている。両隣の2人から稲妻が見えるのだ。

「和夜ちゃん、こっちのお肉焼けたよ」

「和夜!こっちのお肉の方が高級で美味しいわよ!あーん」

「もう私、自分で食えるよ・・・」

苦笑いで和夜は答えた。周りはその様子を面白そうに見ていた。2人を除いて。

「お兄さん、顔が怖いですよ」

南が伸郎へ言った。入院中の騎士の行動にも怖い顔していたので皆、笑っていた。しかし、気に入らないと思っていても騎士は悪い奴ではないので邪魔することは出来なかった。

「俺も・・・黒葉に、あーんして貰いたい・・・」

誰にも聞こえない独り言、片思い中のガンバだった。ちなみに彼は親衛隊になってから黒葉のことを呼び捨てに出来なくなった。頑張れ!ガンバくん!


 救急搬送された日。治療を受けた後、入院のベットで横になった和夜に黒葉は泣きながら謝っていた。そして、感謝もしていた。ガンバという男も続けて

「あれは和夜さんの力ですよね!」

と言っていた。和夜もまんざらでもない顔をしていた。黒葉とガンバが本気で言っている姿から他の奴らも和夜が男2人をどうにかして倒したのだと信じ始めた。


 入院中に騎士が一旦、部屋を出て伸郎、美智子、和夜の家族3人だけの時間が出来た時に和夜は話をした。

「あの時ね。殴られ蹴られだったけどマン先生が現れて私に1つの奥義だけを使えるようにしてくれたんだ。パパ世代のアニメでやってた1番、憧れてた格好良い無敵の奥義。怪我はおまけに治してくれたみたいだから次に使う時は攻撃が当たらないように気を付けないといけないんだ。私も強いキャラになったかも」

伸郎と美智子は言われたことに驚いた。和夜はワクワクした顔をしていた。

「えっ、マジ!?」

「うん。マジ」

そこへ騎士が部屋に戻って来た。奥義に関する話はこの時以外はしていない。


 ちなみに和夜を痛めつけたテントと手下はあの後はどうなったのか。2人が退院して病院を出た際に話し掛けられ振り返ると伸郎と騎士が居た。

「覚悟は出来ているか?」

「そんなの関係ないですよ」

「誰だよ・・・あっ、噂の伸郎と騎士か」

伸郎はテントへ近づきながら話をした。テントは伸郎の顔を見て余裕だと思った。自分は相手と目を合わせることで動きを静止させることが出来る。それを伸郎は知らないのか普通に近づいて来る。だが、伸郎が止まることはなかった。テントは焦った。どんなに伸郎の目を見ても動きが止まることはなかったからだ。

「目を見れば相手を静止させられる。良い能力だ。相手からすれば厄介だしな。でもな、俺はお前の目を見ていない。眉間を見ている。お前の目を見ていると殺してしまいそうだからな」

そう言い思いっきり殴った。続けて騎士はテントに蹴りをいれた。手下も同じように2人によってテントと仲良く入院生活を続行することになった。そもそも、強いキャラはテントの能力何て仮に目を合わせた所で効かないだろう。


 テントとテントの手下はまた入院生活を再開。

「くっそー・・・」

テントは悔しかった。自分が何も出来ずに倒されたのだ。

「テントさん。俺、良いことを思い付いたんですけど」

「なんだよ・・・」

「あの方にお願いしてみるのはどうですか?」


 これは和夜がまだ入院中の時、伸郎の元へある老人がやって来た話だ。伸郎が病院から1人で出てきた所を狙って老人は腰を曲げ手を後ろに回し歩き、声を掛けた。

「やぁ、君が百戦無敗の負け知らずで民の平和に貢献していると噂のヒーロー、伸郎くんかね?」

「確かに俺ですが・・・どちら様ですか?」

「実はお願いがあってな。伸郎くんにしか出来ない、頼めないことなんだ」

落ち着いた声の老人だが伸郎は少し不審に思った。すると、老人の後ろから思わぬ姿が現れた。

「まぁ、そう警戒するな。コイツは別にお前等の敵じゃない」

白い光の玉、マンだった。


 2人と光の玉は詳しい話をするために老人宅へ向かう。古風な大きな家に着いた。老人は広い庭が見える畳の部屋へ案内しお茶を用意した。全員が座り光の玉がお茶を啜り始めた時に老人が話を始めた。

「そう言えば、名前を名乗ってなかったね。わしは不死長老ふしちょうろう。皆からそう呼ばれている。」

「不死?・・・」

「200年近くは生きているからなぁ。あっ伸郎くん別に敬語にしなくても構わんからね」

ありえない長さに冗談だと思った。

「伸郎くんが今まで倒してきた敵に不思議な力を持つ者は居なかったかい?」

「居たな。超能力者みたいな奴らだった」

「倒すのは少しでも苦戦したかい?」

「いや、特には」

その発言に不死長老は嬉しそうだった。

「伸郎くんが超能力者みたいと感じた者達には共通していることがある。それは皆、怪化薬かいかぐすりを飲んだことで身についた力なんだよ。裏社会で流行っているから知らない者も多い。ずっと黒幕を追っているわしも未だに謎が多い」

「麻薬やドーピングの一種か?」

「似ているがどちらでもないとされている。わしは最初、その薬を飲んだ者は全員、不思議な力が宿ると同時に平気で人々を傷つける悪人になると思っていた。しかし、違うのではないかと思っている。実際に委員会として倒さないといけない者達は元々、悪い奴が多くての。それに、実はわしも・・・その薬を飲んでしまったことがあってな」

伸郎は不死長老の発言に目を見開く。

「今から100年以上も前に最愛の息子を殺されてしまってな。それで息子を殺した犯人を追った。やっと見つけて決着を付ける日に犯人に背後から無理やり毒を飲まされてな。それでも相打ちの覚悟で戦って勝ったわしは毒を飲んだはずなのに死ななかった。どうやら間違って毒ではなく怪化薬の方を飲ませたみたいでな。そやつの胸ポケットに飲ませたと思われる薬の袋があった。その袋には怪化薬と書いてあった」

不死長老はお茶を飲み、また話を始めた。

「そのせいなのか分からんが長生きしている。薬を飲んだ後に体を調べてもらったが何もなくてな。勿論、人様に殺傷等、傷つけるようなことはしていない。それは、信じて欲しい」

「ああ・・・」

伸郎は不死長老のことを疑うことはなかった。

「ありがとう・・・長生きの原因が結局は分からない。薬を飲んだ影響ということ以外は・・・」

不死長老はお茶を見つめ少しの沈黙後にまた口を開いた。

「いや意地かもしれんな。薬を飲んだ者は数えきれない程おる。黒幕を捕まえるまでわしのように家族を失う者が居なくなるまでは息子の所には行けないのかもな」

伸郎は不死長老を真剣な眼差しで見つめながら聞いていた。

「伸郎くんにお願いしたいのはわし達と一緒に怪化薬の黒幕を倒すことに力を貸してほしい。だから是非、組織に入って欲しい」

と言った瞬間に不死長老は机を軽くトンと叩いた。すると目の前に半透明なコンピュータ画面が出てきた。そこに書かれていた文字は

「怪化薬打倒委員会?」

だった。不死長老はまた机を軽くトンと叩き画面を変更し言った。そこにはKKDと書かれていた。

「略してケーケーデーとも言われておる」

「ただの机に見えてハイテクだったんだな」

空中ディスプレイなんていかにも漫画世界だと伸郎は感じていた。まさか昭和を感じさせる部屋にあるとは思わなかったが。

「わしがこの組織を作り長年、経営者のような形で動いておる。伸郎くんには是非この怪化薬打倒委員会のリーダーになって欲しい。まぁ特別、役職とか決めてなかったんだが、イメージしやすくバトル漫画とかで例えると幹部のリーダーとかかね?マンくんがそんな風なことを言っておった」

「いきなりだな」

「伸郎くんのような人。いや、伸郎くんにしか務まらないと思ってな」

不死長老は立つと伸郎の隣まで行き座り直した。すると、床に手をつき頭を下げ

「お願いします」

と言った。伸郎は焦って不死長老の頭を上げさせた。

「俺で良いのか?そんな長年の組織に新入りがリーダーだなんて」

「わしは貴方のような人を待っていた。圧倒的に強いヒーローを」

不死長老は伸郎に懇願した。呑気にお茶を啜っていた光の玉が声を出した。

「お前のためにも入った方が得だと思うぜ?最終回へ繋げるためにも」

「もしかして爺さんも漫画世界に連れて来られたのか?」

「いや、わしは元々この世界の住人のはずだよ。事情はマンくんから聞いておる。伸郎くんがここへ、いわゆる漫画世界へ来たこと。元は定年近い現役の自衛官で今は若返っていること。奥さんも娘さんも若返って兄弟という設定で生活をしていること」

伸郎はマンの方を向いた。マンは言った。

「ここまで来るとは・・・初めてだよ。お前はやっぱり選ばれた人間だったんだな」

「伸郎くん、この通りお願いだ」

「爺さん分かったから!分かったから土下座は止めろ!」

「リーダーになってくれるのかね!?」

「ああ」

「ありがとう」

不死長老は涙を流しながら大変、喜んだ。

「リーダーになっただけだろ。大袈裟だな」

と伸郎は笑いながら言った。

「やっと始まったな」

とマンは2人を見て呟いた。

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