不覚と焦燥に爆ぜり

鋭く残忍。左肺を突き刺し呼吸を漏らさずにはいられなかった。


刃を抜き、サラは落ちる。服に血は滲み、聞こえるはただ鼓動のみ。


ロイは駆除した虫の死骸を見るような目でサラを見つめる。


私はいま呼吸をしているのか?力は入らず胸が潰されるかのような圧迫感に悶える。


能力サラマンダーの鱗で傷口を覆い、吹き出る血を抑えた。


サラは手を床にやり、震える手で身体を持ち上げる。ゆらゆらと立ち上がり重力の強さを実感する。


一歩、一歩とよろめきながら相手に歩みだす。


再び鱗を拳に纏い、赤赤とした腕が脈打つ。火花はもはや散らず。


もはや何も見えていない。ただ敵の気配へと進む。


「なかなかしつこいな...。」


ロイは瀕死のネズミが自分の方へと向かってくるような、そんな不快感と苛立ちを覚えた。


サラはゆっくりと拳を握り締め、振りかざしーー。


ロイはサラ吹き飛ばす勢いで喉元を殴る。1発で魂を払拭するつもりである。


サラは後方へ勢いよく飛ばされて教室の壁に打ち付けられる。真紅色のアザ、口元から血が垂れる。


「いい血の香りだ。丁寧に喰らってやるよ。」


サラはもう立ち上がれるはずもない。しかしか細い意識の中ロイを睨みつけ、潰されかけた声で言う。


「それは自身の鼻血の匂いでしょ....あなたはさっきから何も匂えてない。」


ロイはサラの言葉に気を揉み、周りに目を向ける。赤いトカゲが走り回っており、いくつもの缶がそこらに転がっていた。


ロイは顔面を殴られた際、硬化で守ったものの嗅覚機能を失うには十分なダメージが入っていた。


転がる缶に書かれていた文字は、


“G A S”


「ガス缶ッ!?」


「...勝因は、自分の能力を最後まで見せなかったこと....マッチ以上、ライター以下、それだけで十分...。」


「シャー....。」


次の言葉を許す間なく、トカゲは弱き火を放つ。


瞬時に青い炎がロイを包み込み、大地を砕くほどの爆音と共に吹き飛ぶ。

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